製作:2018年メキシコ
発売:エクリプス
恋人のロベルタと同棲中の翻訳家エスター。ある日、ロベルタの怪しげな電話を聴いてしまい、浮気を疑ったエスターは彼を尾行。すると、ロベルタは別荘に若い女性を連れ込んで拉致監禁しているサイコ殺人鬼であることが発覚。エスターは被害者を助けようとするが…
ものすごく地味でシンプルなサスペンス・スリラーです。あまりに地味すぎて味気ないのと紙一重になってますが、極限まで無駄をそぎ落とした構成と、淡々と神経を逆撫でしてくるような演出は追われる者のリアルな恐怖を感じさせてくれて良かったと思います。
ツッコミどころ満載なのはまず邦題&宣伝の方で、
『ドント・ブリーズ』『ドント・イット』『ドント・ヘルプ』等、近年のホラー映画界を席巻する『ドント』シリーズ!その『~してはいけない』シリーズの正当な流れを汲む、人気ホラー・シリーズの最新作の登場!」
(エクリプス公式HPより)
「
ドント・イット」も「
ドント・ヘルプ」も配給会社が勝手に便乗作に仕立てただけなのにいつのまにか完全にシリーズということになってます。「シリーズ」って3回も連呼してシリーズであることを強くアピール。つーか「~してはいけない」シリーズと言い張るなら、「ドント・イット」って何をしちゃいけないってことなのか教えてほしいんですが。「It」にも同時に便乗したせいでよく分からんことになってますが。
で、本作の場合は「リサーチしてはいけない」ですよ。別にただ浮気を疑って尾行しただけなんですけどね。それぐらいさせてくれてもいいだろ。こんなんで「シリーズの正統な流れを汲む」などと、よく臆面も無く大ボラ吹けるもんだなあと配給会社の商魂逞しさに感心しきりです。
本作、世界中のファンタ系映画祭を席巻したとか何とかで色んな賞を受賞してるらしいです。まあそれだけなら大変よくあることです。例えば「
パズル」は文句なくクソ映画でしたが驚異の37冠らしいし、「
RE:デッド」もひどいが34もの映画祭が熱狂してました。そういや「ドント・イット」もそんな感じでしたね。
しかし本作がユニークだったのは、本編開始時にその受賞歴をやたら長々映してアピールしまくるところです。一体いくつ獲ってるんだ?というかいつになったら本編が始まるのだ?と恐ろしくじらされます。まあ、「パズル」や「RE:デッド」に比べれば圧倒的に出来が良いのでマイナーな映画祭で色々受賞しててもそこまでおかしいとは思いませんでしたが。
とは言ったものの、本編については前述した通りあまりにもシンプルすぎるので語るところがほとんど無いです。少し気になったことと言えば「快楽殺人気質は先天的なもの」ってところぐらいでしょうか。ロベルタは恋人のエスターと仲睦まじく同棲していながら、別の女性を別荘に連れ込んでは拘束監禁していたぶり殺していたわけですが、どうしてそういう人間になったのか、いつからやっていたのかとか、なぜエスターとは表面上穏便に付き合っていたのかなど、彼の人物像はほぼ何も分かりません。
「生まれながらの悪」であったととらえるしかない。それはそれで訳の分からんおぞましさは表現出来ているかもしれませんし、それを突き詰めたラストの後味の悪さはなかなかのものですが、本当にただそれだけです。
まあ尺が70分弱とかなり短いのもあって観やすいので、盆休み中の暇つぶし程度にはオススメできます。