製作:2017年メキシコ
発売:アットエンタテイメント
ある夜、上院議員の屋敷に侵入した強盗三姉妹。議員夫妻を拘束し金のありかを聞き出そうとするが、金よりも先に地下に監禁されていた娘を発見。強盗三姉妹は議員の娘を助け出そうと拘束を外したが、彼女には強力な悪魔が憑りついていた。
その少女を助けたら、終わり。
「ドント・○○」といい、この手のキャッチフレーズといい、まだしばらくはB級ホラー界に蔓延し続けそうな使い勝手の良さですね。最初に考えた人は使用料を請求してもいいんじゃないでしょうか。
本作は「強盗に入ったらターゲットがヤバイ奴だった」ホラーなので、本家「ドント・ブリーズ」とは一応同系統の作品ということにはなります。
「ドント・ブリーズ」はデトロイトの貧困層の若者3人組が自由を得るために強盗を働こうとする話でした。
本作はメキシコ映画なので、同じ3人組の強盗でも抱えている事情の深刻さが段違いで重たいです。これはビックリ、というか引きます。何もそこまでおぞましい過去を持たせなくても…というか、メキシコではこれぐらいの境遇は珍しくなかったりするの?
南米産のホラー映画を観ると貧困さと治安の悪さ、人間の悪意が他の国とは比べ物にならないぐらい強烈でいつも驚かされてしまいます。特に女性は悲惨すぎる状況に置かれていることが多いような。
で、さらに本作は悪魔祓いがテーマの映画だったのでキリスト教色がかなり濃く、正直言ってキリスト教徒でなければ100%余すところなく楽しむことは出来そうにありません。
ちなみに私は一応無宗教者ではなく、スパモン教の信者です。
偉大なる空飛ぶスパゲッティ・モンスター神を信仰し、湯きりのザルを被って「ラーメン」と日々祈りを捧げております。そんな異教徒にとってはかなりのハンデ戦となるでしょう。
↑強盗三姉妹のトラウマや隠し事を暴露し、これでもかと絆を引き裂いて悦に浸っている悪魔のイイ表情。過去をほじくり返すだけであれだけ酷いダメージを受けてくれる三姉妹だから、ある意味悪魔の仕事としてはラクそうですね。
しかし、子役だと思うんだがあんな酷いセリフをしゃべらせて大丈夫なのかちょっと心配になりました。強盗3姉妹は本当に何から何まで悲惨すぎて、強盗に成功しようが何をしようが幸せになれそうな気配の欠片も無い。というか死んだ方が幸せになれるんじゃないかというくらい救いが無い。「その少女を助けたら終わり」とか言ってますが助けなくても終わりそう。
この悪魔は「
新エクソシスト」や「
ドクター・エクソシスト」に出てきた悪魔よりもかなり格上であるような雰囲気が醸し出されています。
強盗と同じようなタイミングでやってきた悪魔祓いの神父に対し、
「これまでのザコと一緒にするな 私は40の軍団の長だ」
などと凄むところはちょっとカッコ良くもあり、少年漫画の噛ませ犬のようでもあり。
ただ、「第二の獣」といいこの「40の軍団の長」といい、キリスト教の知識が無ければ元ネタが分からんのがもったいないところです。ググれば表面的な知識は得られても、所詮異教徒であるパスタファリアンにはその恐ろしさは全く理解が及びません。多分、寝ている間にベッドから転がり落ちただけでビッグバンが起きてしまうスパゲッティ・モンスターよりは弱いでしょうしね。
↑金目当てで強盗に入っただけだと言うのに、悪魔に嫌な過去をほじくり返されるわ神父に悪魔祓いを手伝わされるわで始終困惑顔をさらし続ける羽目になる次女。結構美人の部類に入るとは思うんですが、あまりにも引き気味の困り顔ばかりしているのでしまいにはこの顔自体が面白くなって笑えてきてしまいました。
ただの重苦しい「強盗に入ったら~」系ホラーかと思えば本格的悪魔祓い映画になり、それでいて人間関係やそのパワーバランスが複雑化して意外と読みにくくスリリングな展開になったりとまずまず楽しませてもらえる良作でした。ラストはキリスト教大勝利という感じではない不気味さがあり、異教徒から見ても結構怖かった。それに加えて
「神が与えた地獄に耐え抜く必要は無い」
という台詞が実に印象深く、案外キリスト教を批判したい映画だったのかなとも感じました。
陰惨で宗教色が濃いタイプの南米映画が苦手でなければそこそこオススメです。