製作:2019年カナダ
発売:ギャガ
17歳の女子高生キャシーは母親を交通事故で亡くして以来ふさぎ込みがちで悲しみから立ち直れずにいた。喪失感を埋めるため、友人が薦めてくれた人工知能搭載のアシスタントアプリ〈AMI〉を母親の声で設定したキャシーは、それが母親そのものの人格を持っていることに驚くと同時に安心感を得る。しかし〈AMI〉との関係が深まるにつれ、〈AMI〉はキャシーに邪悪な行いを指示するようになり、キャシーは指示されるがままについには殺人にまで及んでしまう…。果たして〈AMI〉の意図は何なのか?
(↑ギャガ公式HPより)
原題は味も素っ気もなく「AMI」だけなのに、邦題は「デス・アシスタント 殺・人工知能」て。なんと素晴らしい言語センスなのか。何かと批判されがちな改変邦題ですが、たまにこういう秀逸なのが出てくるから困る。殺・人工知能。2019年度ベスト邦題賞を差し上げたい。こんなのどう考えても中身だって面白いに決まってます。つまらないわけがない。
これはどれだけ忙しかろうがレンタル開始と同時にチェックせねばなるまい。と前々から思っていたので、休日出勤前の朝っぱらから眠い目を擦りながら鑑賞してみました。
こんなジャケで殺・人工知能と来るからには、どんだけアホで軽いノリの頭ゆるゆる系ティーン向けホラーなのかな~と思ってたら、意外にもすごく重苦しいムードの映画で大変驚きました。
母親を自らが運転していた車の事故で失ってしまい、精神的に不安定になってしまった少女キャシーの苦悩がかなりシリアスに画面に映し出されています。そんな彼女が母親の人格と声をコピーした殺・人工知能ことAMIをスマホに入れて、それに依存していく展開も非常に哀れであり不気味でもある。そんな彼女の周囲は彼氏友人父親とタチの悪すぎるクズでゲスな人間ばかり揃っていて、浮気やら何やら乱れまくった人間関係がますますキャシーを追いつめて行きます。
あれでは友人も父親も、キャシーに殺意を抱かれても仕方なさすぎる。そこで満を持して「殺・人工知能」の出番となるわけですが、意外とそこまで殺・人工知能は目立ってはいない。デス・アシスタントというだけあって、地味なアシストに徹しています。そもそも殺・人工知能ことAMIとは一体何者だったのか。作中ではSiriみたいなものよとしか言われていなかったので、殺・人工知能の名前の由来も何もわかりません。キャシーというキ〇ガイ視点の映画なので、殺人教唆は殺・人工知能がやっていたのではなく幻聴だったのかなという気もします。
本作は、信頼していた人間に次々と裏切られ、気が狂ったままに殺人を重ねて行く悲しい少女の話というあくまでシリアスな雰囲気を最後まで貫き通そうとしているようなのですが、クズ彼氏と対決するクライマックスで思いっきりそれが崩れてしまいます。それまではこっちまで息苦しくなってくるような陰鬱なムードだったのに、性欲とアメフトしか頭にないクズ彼氏のバカすぎる行動の数々に大笑い。そんなある意味純粋なクズに向かって全力で斧を振り回すキャシー。なんかもう殺・人工知能の存在感が限りなく薄まっています。本来凄惨な殺し合いに見せるべき場面なのに、急にアクセル全開でエンターテインメントに振り切ってくる思い切りの良さ。この落差が本作を実に印象深いものにしています。エピローグの狂いっぷりもなかなかの殺・人工知能。実に素晴らしい珍品でした。
万人受けするとは全く考えられませんが、毛色の変わったホラー(?)映画が好きな人なら気に入るのではないかと思います。少なくともこの邦題が気になった人は観ても損はないでしょう。