私は基本的に邦画を観ることはありませんが、
この「ジョーズ・イン・ジャパン」に関しては、
いくら苦手な邦画でも一応サメ映画だしいつまでもスルーできないなあ…
ということで意を決してレンタルしてみることにしました。
邦画の何が嫌かって上映時間がやたら長いのが多いってことなんですよね。
あと演技や演出が過剰気味に感じるのも辛い。
しかし、本作に限ってはたったの69分しかありません。
そして出演者の演技も演出も大変控えめというか自然体なので、邦画の嫌な点が何もない。
ついでに言うとストーリーも何もなく、サメの出番もほとんどない。
じゃあ何があるのかというと、何もない。
この映画には驚くほど何もない。
その辺の公園に定点カメラを69分設置した方がまだ起伏に富んだ物語が自動生成されるであろう。
ありとあらゆる娯楽要素をカメラの前からあえて排除しない限り、本作のような「虚無」が我々の前に現れることはできない。
Z級映画を観ていると時おりこのような「虚無映画」とでも呼称すべきスタイルの物体に出くわしますが、別に怒るほどのダメージを受けることはさほど多くありません。
大抵はキング・クリムゾンの如く時間を消し飛ばされる感覚を味わうだけで済むのです。
ところが本作の場合、全部ではありませんが尺の大半を
「海で遊んでいる水着の女の子が海で遊んでいる水着の女の子を手持ちカメラで撮影しているPOV映像」が占めています。
私はPOVが大嫌いというか大の苦手です。
なぜかというと酔うからです。
酔わない人がいることが信じられないくらいすぐに酔います。頭痛い。
作り手側はそりゃ素人に適当に撮らせればいいんだから楽だろうなとは思いますが。
素人アピールをするためか知りませんがとにかくカメラをグラグラグラグラ不自然なほどブレさせてくれます。
もはやアルコール中毒者が酒を切らしているかの如き手の震え。
これなら犬の頭にでもカメラを付けた方がまだマシでしょうね。
いや定点カメラでも一向に構いませんが。
本作の趣旨はおそらく水着の女の子が戯れている様子を画面に映し出すことのみであろうと考えるしかないほどに水着の女の子しか映りませんが、それすらも揺れまくるカメラのせいでまともに鑑賞することができません。
この苦痛度は割りと真剣に「時間を消し飛ばされている無意識の間に殴られている」かのようなダメージを負うことと同等と言えるでしょう。精神的に。
いくらなんでも、もうディスクを取り出しても良いのではないか? という衝動に従いたくなるのですが、
まだサメの姿を拝んでいません。
まだ水着の女の子しか見ていません。
サメの神への信仰心を捨てられず、どうしてもディスクを取り出すことが出来ない。
サメ映画を観ているからにはせめてひと目、サメの姿を観るまではギブアップ出来ない…とサメ映画マニアの難儀な習性が、揺れる虚無を見つめ続けることを強制してきます。
そして、無限にも思える極限まで引き延ばされた虚無映像に耐え、
いよいよサメが姿を現したその瞬間…
おそらくその出番は10秒にも満たない…
安いCGのサメが唐突に飛び出してきて、
特に人間を喰らう描写も見せてくれないまま消えたらもう残すはエンドロールのみ。
サメをラストまで出し惜しむという戦略に見事ハマってしまい、結局最後まで鑑賞し切るという偉業を意図せず達成。
私がこれまで観た中でも特に強敵と感じたサメ映画は
「
デビルシャーク」
「
ロスト・ジョーズ」
「
ケージ・ダイブ」
の3つですが、
本作もそれらと充分肩を並べることのできるクオリティでありました。
ただし苦痛度では全編POVでチャラ男兄弟と金髪ビッチの喧嘩を見せつけてきた「ケージ・ダイブ」には劣るし、
虚無度では延々と素人のショートコント風映像を繋ぎ合わせていた「ロスト・ジョーズ」に劣るし、
不快度ではとにかくどいつもこいつも嘔吐するシーンばかり画面に映した「デビルシャーク」に劣ります。
本作にはそれらのような、突出した「邪悪な何か」には決定的に欠けており、「純国産」であること以外に特色を見出すことが困難です。
それもまた虚無。
特徴が無いのも特徴。
もはや「精神修養」とか「サメ映画マスターを目指すなら」とか「珍しいものを観たい人に」といった枕詞をつけてもオススメできる層など存在しないと言わざるを得ませんが、その事実がまた「一体どれほどの物なのか」と興味を持つ天邪鬼を引き付けるのかもしれない。ということでそういう方はぜひご覧になってみてください。