「ドクター・エクソシスト」…何となく想起させたいイメージは分かりますが、
単に無関係な職業を2つ並べられただけの邦題だとやっぱり違和感を覚えますね。
しかし内容的には、有望な若手監督に加えてスター俳優(?)アーロン・エッカート主演ということで
かなりそつなくまとまったA級ホラー映画と言って良い出来でした。
ただまあ、この「そつなくまとまった」というのが私にとっては逆に曲者で、
あまりにも真っ当なエンターテインメントすぎて大した印象に残らないのです。
食べ物で言えば完全にチェーン店の味です。
何もかも予想通りに転がって行きすぎる話というのも考え物ですね。
ラストだけは「ああ、そっちなの?」という程度の意外性はありましたが。
物語はストレートに王道そのもので、
「悪霊に憑りつかれた子供。かつてその悪霊に妻子を殺された過去を持つ悪霊ハンターは、子供を助けるため、敵を討つため、最後の戦いに赴く」
といった感じで珍しくもなんともなく既視感全開。
ただ、今までに見たことが無い設定も一応あって、
「悪霊(悪魔)祓い」をテーマにしておきながら、
主人公はあくまで無宗教者であって、神に頼ることなど全くせずに
自分(と助手)の力だけで悪霊を祓うというのが新しいかなとは思いました。
彼らは悪魔とも悪霊とも言わずあくまで「(精神)寄生体」と表現します。
向こうの人は信仰心を持っていて当然なので、この手の映画で神に頼らないのは実に珍しいです。
ただ主人公エンバーは生まれ持った「人の潜在意識に介入する」という超能力で悪霊を退治するわけで、純粋に科学の力で戦うわけではない。
まあそれでもお祈りも聖水も使いませんが、
…十字架だけは何だかんだで使ってしまうところが若干中途半端なんですよね。
宗教的手段に効力があるならもっと使うべきだし
宗教を否定するなら徹底的にそういう小道具は除外すべきと思いました。
「悪霊憑き」という現象に対して、かなり科学的なアプローチで解決しようとするエンバーとその助手たち。
エンバーはボサボサロン毛で車イス、助手はなぜかパンクロッカー風のいで立ちで、何だかやたらキャラは立っています。これまでに何人もの悪霊憑きの意識にダイブし寄生体を退治してきたようで、彼らの間には既に強固な信頼関係が成り立っています。
しかし86分と短めの尺なので助手の掘り下げは何もなし。
それでも彼らの手慣れたやり取りを観ていると本作が単品の映画ではなくテレビドラマシリーズの最終話か劇場版なのではないかと思えてきます。
設定がテレビドラマ向けすぎる気がするし、そっちでボツになった企画を映画に回したのかもしれません。
「なぜ、そんな目で見る?」
と言われても…お前こそ何だよ…そんな目で見るなよ…と返したくなるシーン。
「
ドルフ・ラングレン ゾンビハンター」
…という、悪霊と戦う映画が最近ありましたが、(※ゾンビは出てきません)
本作もあれと同じで悪霊の憑いた人間の目が真っ黒になります。
向こうではそれが共通のイメージとしてあるんでしょうかね。
人から人へ乗り移る目の黒い悪霊…と同じような題材なのでつい比べてしまいますが
そうなるとやはり色々と尖がりまくっていた「ゾンビハンター」の方が断然刺激的で面白かったと言わざるを得ません。本作はあまりにも大人しく教科書通りに作られすぎています。
ただ、その分本作は一応ホラー映画でありながら
恐怖心をつついてくる嫌な場面や残酷描写皆無というおだやかさがありますので、
過度な刺激に弱いホラー映画初心者にも甘口カレーの如く安心してオススメできる無難な味という捉え方もできます。
何をやらかすのか予想もつかない人間核弾頭ドルフ・ラングレンと違って、こちらは非常に優等生的なオーラを振りまくアーロン・エッカートですから実に安心して観ていられる。無難でも何でもこっちにはこっちの良さがあるのです。誰も彼もが刺激的な味わいを望んでいるわけではないはず。
ということでもし悪霊祓い映画が観たい気分になったら、
激辛が良ければ「ゾンビハンター」
甘口で充分なら「ドクター・エクソシスト」
というチョイスをしておけば間違いないことでしょう。