製作:2018年アメリカ
発売:ワーナー・ブラザーズ・ホームエンタテイメント
2015年に高速鉄道タリス車内で発生したテロリストによる銃乱射事件、それを防いだ3人の若者たちの人生を描いた、半ばドキュメンタリーのような地味な映画。
いつもしょうもないふざけたクズホラーばっかり観てるくせにどうして急にこんなシリアスな作品を…? 気でも違ったか?
と思われることでしょうが、私にもそういう気分の時があるんです。
たまたまテロ行為の現場に居合わせ、とっさに立ち向かってみんなの命を救った…だなんてまるで中学生男子がよくやる妄想みたいな話ですが、現実にあった出来事なら仕方ありません。誰も文句のつけようがないスーパーヒーローです。しかもそんな英雄譚を本人たちが本人役で主演して映画化して全世界で公開とか一体どこまで登り詰める気なのかと呆れに近い感情すら抱いてしまいましたが、本作を最後まで観るとそれも納得せざるを得ない内容ではあります。
パリ行き列車内で銃乱射テロが発生し、それと戦う3人のアメリカ人…という触れ込みの映画ですから、さぞかしスリリングで血沸き肉躍るポリティカルなサスペンスアクションが観られるのかと期待していたわけですが、実際のところそんなもん3分ぐらいしかありませんでした。
じゃあ93分のうち90分は一体何だったのかと言えば、凶悪なテロ事件を防いで人命を救った3人の若者はどういう生い立ちを経て、どんな楽しい欧州旅行の最中にあの事件に遭遇するに至ったのか。
という、はっきり言えば極めてどうでもいいホームビデオのような映像でした。私はZ級映画を形容する時によくホームビデオと言う言葉を使いますが、こちらは技術的にアレだという意味ではなく「一般人のプライベートな内容」という意味で実にホームビデオチックです。特に欧州旅行のくだりが。
もしこの3人の若者と友人知人であるとか、同郷であるとかでただならぬ興味関心を抱いているのであれば、彼らの生い立ちも退屈せずに鑑賞できるとは思います。
しかし、そうでない人にとっては何も面白くはないです。
今では英雄と称えられる彼らも、子供の頃は問題ばかり起こしている悪ガキだったんですよ、軍隊では落ちこぼれもいいところだったんですよ、なんてのは現実ならしょうがないとはいえ類型的すぎて、本当か?誇張してんじゃないの? と疑ってしまいたくなるほどに校長室に呼ばれまくるわ腕立て伏せの懲罰を受けまくるわ。
とはいえ、「普通」の範疇を逸脱してしまうほどダメな人間というわけではもちろんなく。むしろ志だけなら人一倍立派なアメリカ軍人なんだぜと言う感じで何事もない日常生活から彼らの人となりがのんびり描かれ、中盤からはいよいよ問題の欧州旅行に。
しかしその欧州旅行がまたえらく退屈です。
そりゃあ、野郎共が自撮り棒片手に観光旅行している様を特に何のひねりもなく淡々と、かつ延々と映し出されてもこちらとしてはせいぜい景色を楽しむぐらいしかやることがない。
ただまあ、主役の3人は当然役者でも何でもない素人なのに、特別演技が下手にも見えず違和感が無いのには感心しました。本人役だし内容的にやりやすかったのかもしれませんが、少なくとも私が普段よく見るZ級映画の役者よりよほど上手いと思います。というか、素人にすら負けるZ級映画出演者とは一体何なのか。
で、そんなダラダラとした欧州旅行も終盤にさしかかり、ようやく15時17分パリ行きの列車に乗り込む3人。
ここからのテロ発生とそれを抑え込むくだりは、最初に言った通りごくごく短くアッサリしているのですが、それだけに大変リアリティがありましたね。現実に起こったことを寸分違わず再現したんじゃないかという風に見えます。まあテロ防止が成功し全員生還すると分かってるんでエンタメ的な緊張感は微塵もありませんが、彼ら3人の偉業を肌で感じるには十分すぎるクオリティでした。
そういう意味ではあの退屈な前置きも必要だったんだろうなとは思うし、良い映画だったとも思いますが、娯楽性は皆無でしたね。それまでの人生の積み重ねによって解決出来たんだ感にはカタルシスがなくもないが、タリス銃乱射事件をドキュメンタリーとして観たい人が観るべき映画だと思います。