RUBBER ラバー 　感想

舞台がアメリカらしいし、登場人物が英語で話しているので
てっきりアメリカ映画かと思って観ていたのですが、
あとで調べたらどうやら監督のクエンティン・デュピューという野郎は
おフランス人のようです。
危うく主犯はまたもアメリカ人かと勘違いするところでした。




しかし自我に目覚めたタイヤが徐々に人格（？）を確立させていくっぽい
序盤の流れは、無駄にアート的な映像美とタイヤのオスカー級演技によって
意味も無くクオリティが高いです。
本作は内容のくだらなさに反してホームビデオ的C級パニック映画などではなく、
ちゃんとしたスキルを持ったスタッフによって撮られた実験的な現代アートムービーのようです。
いかにもフランス野郎が撮りそうな雰囲気の映画ですが、
さすがにここまでナンセンスな設定はあまり見たことがなく、
かと言ってワクワクするほどの物珍しさがあるわけでもなく、
いかに美しい映像で見せられようとも
結局いつものクソ映画を観てる時のテンションにならざるを得ませんでした。








史上初の殺人タイヤ！
というわけで私のような凡人はタイヤがゴロゴロ転がって衝突する
みたいなダメージの与え方をするのであろう、
と安易な想像をしてしまいますが、
そんな当たり前の殺人方法を見せてくるような凡俗な奴だったら
そもそもこんな映画を撮るわけがありません。


デヴィッド・クローネンバーグの「スキャナーズ」という名作映画を
ご存知の方なら真っ先に連想したと思いますが、
なんと本作のタイヤの殺人方法はその「スキャナーズ」と全く同じです。
つまり念力で人間の頭を爆裂させます。（これがまたけっこうグロイ）

じゃあタイヤじゃなくてもいいじゃねーか！

と誰しもが叫ぶことでしょうが、
本作のテーマは「何事にも理由などない」ということです。
これは暗喩で示されるとかでなく、普通に言葉でクドクドと主張されます。
なのでタイヤが念力で頭を爆発させようが理由を気にしても仕方がないし、
本作の内容も存在理由も何も気にする必要はありません。






本作はそんな殺人タイヤが徘徊するだけの映画かと思いきや、
そんなタイヤの珍道中を観察している集団が存在します。
これは映画の中に観客がいるというメタ表現でしょうが、
途中で一人を除いてみんな毒殺されます。その一人も念力で頭部爆裂の憂き目を見ます。

文句を言ううるさい観客は死ね！

という大変高尚なメッセージがストレートに伝わって来て大変心苦しい限りです。
私も本作にこれ以上文句を言うのはとりあえずやめておこう
と思いました。














「何事にも理由などない」というテーマなので
だいぶ強烈な「虚無映画」なのかと思いきや、意外と起伏に富んだストーリーが存在し、
それなりに楽しませてくれます。
そのうちなぜかタイヤが可愛らしく見えてくるという不思議。

ということは上に載せた画像３点を見ていただければお分かりになってもらえることとは思います。
真の虚無映画とは「ジョーズ・イン・ジャパン」や「ファイヤードラゴン」のような
もっともっとおぞましい暗黒的な何かを指すのです。

そういう意味では無意味を自称しながら真の虚無になり切れていない
おフランス野郎の浅はかさに失笑してしまいそうになりましたが、
よくよく考えるとそんなもの別に見たくないのでむしろ感謝すべきでした。

結論としては、「人生の無意味さとは何か？」という哲学的思考に耽りたい気分の
タイヤ業界の人にオススメです。