製作:2012年アメリカ
発売:コンマビジョン
不動産屋の元旦那から慰謝料代わりにと無料で住めることになった一軒家。喜んで入居したナンシーは、しかしそこで毎晩奇怪な悪夢に苦しめられることになる。消しても塗りつぶしても復活する地下室の不気味な模様は異次元世界への入り口なのだった。
最近仕事がキツくてストレスがたまる…あっちゃこっちゃから矢継ぎ早に飛んでくる要求が細かすぎてとにかくめんどくせぇ…
そんな時ほど大雑把でゆる~い雰囲気のZ級映画を観たくなってしまいます。
「
ジュラシック・ビースト」…じゃなくて「ファンタスティック・ビースト」に便乗しているようで全くできていない邦題からは内容を推察しにくいんですが、本作は「
ビッグ・クラブ・パニック」のブレット・パイパー監督が毎度おなじみポロニアファミリーと製作したダークファンタジーのようなクトゥルー神話のような変な映画です。いつものシンプルなモンスターパニックではないのがちょっと不安でした。
しかし私の荒んで乾き切った心がKUSO映画という名の潤いを求めてやまないのです。
果たして今回はいったいどれほどどうしようもなく虚無的なやっつけホームビデオを見せて頂けるのか!?
…と思いきや、これが案外マトモなのでした。
いや、ガッカリしてませんよ。
マーク・ポロニアプロデュース、そして画面に映るのはいつも通りポロニアファミリーの面々なのに、本作の出来は(Z級映画としては)素晴らしく良いです。もはやZではなくC級映画と呼ぶべきかどうか迷うほどのハイクオリティ。
私の感覚がどうにかなっている可能性も否定できませんが、少なくとも本作に「手抜き」「やっつけ」感はほとんどありません。
製作資金が無いことによるホームビデオ感は期待通りですが、特殊効果への力の入れようが凄い。やはりそこはポロニア監督作品で特殊効果を担当することが多いブレット・パイパーが本気を出すとここまで出来るということなのか。
逆に言うとポロニア監督作品ではテキトーにやってるのか?
↑慰謝料代わりに無料で住める家をせしめたはいいが、夜、眠るたびに異次元世界へ突入し奇怪な怪物に襲われる悪夢を見る羽目になった女性作家ナンシー。強引に無料で入居したくせに呪われた家であることを理由に不動産屋やネズミ駆除業者を責めたてるうえに絶対に金を払わない等、性格におそろしく難ありの人物。
ブレット・パイパーお得意のストップモーションアニメで動きまくる怪物は質・量ともにかなり良好。お金はかかってなくとも手間はすごくかけてるな~と素直に感心出来るし、背景の丁寧な合成感と相まって独特の悪夢的世界を表現しています。ここまで監督の映画愛を感じられるとチープだ何だと文句を言う気にもなりません。
↑複数の空飛ぶガイコツモンスターにぬるく攻められるナンシー。こんなに多数のガイコツを同時に動かしているだなんて、なんと卓越した撮影技術なのか。
まあ体調を崩すほどひどい悪夢かと言うと別にそうでもない気がしますが、そんな彼女を心配して妹がオカルトに詳しい大学教授を連れてきて云々。いつの間にか手に入れていたベヘリットみたいなものが実は這い寄る混沌ニャルラトホテプでありただの悪夢ではなく異次元だの何だの。ラブクラフト原作と言ってもストーリー自体は別に面白くはない。ただ黒幕の正体には大笑いしましたね。まさかあいつがあんな奴だったとは。
ナンシーがテレビで「ビッグ・クラブ・パニック」を見て「ゴミ番組ばっかりね」などとメタ自虐的なコメントをする場面もちょっと笑ってしまいましたが、個人的には結構楽しめたカニ映画だしそこまで卑下することもないのでは…と複雑な気分。
↑異次元宇宙に身を投げ出し、謎の惑星へ生身で大気圏突入。なかなか斬新な絵面です。シャークネード3で宇宙からサメの胃に入って落下した時に次ぐインパクトの大気圏突入シーンでした。こういう凝った映像の見所がふんだんに用意されているというのが本作の美点と言えます。まあそれだけの映画と言えばそうなんですが。
個人的にはまあまあ楽しめたとはいえ、人に勧められるようなものではないので物好きな方はどうぞとだけ言っておきます。