製作:2018年アメリカ
発売:竹書房
20世紀前半に緑化・土壌流失防止用植物としてアメリカへ持ち込まれ、大繁殖した葛。当時のアメリカ人にはもてはやされた葛も、現代ではあまりにも増えすぎて侵略的外来種となってしまった。そんな葛を駆除すべく、新しい農薬が実験的に散布された。しかし、その農薬には重大な副作用があった。葛が人間の体内に寄生し、ゾンビ化させてしまうという恐るべき効果が…
普段ゾンビ映画にはあまり注目しませんが、「クズ・ゾンビ」というタイトルはちょっと目を引きますね。それも実質
「葛ゾンビ」ともなればなおさらです。ダジャレならともかく葛の一体どこにゾンビ要素があるというのか? ジャケの「葛の大群vs人間!」というのはさすがに誇大広告でしょうが、プラントゾンビとは新しい。果たしてどんな珍作なのかと期待に鼻をふくらませて鑑賞いたしました。
のですが、「葛」要素はそこまで強くフィーチャーされているわけでもなく。至極スタンダードな趣の低予算ゾンビ映画でした。アメリカ南部の小さな町で夏フェス中に発生するゾンビ騒動を、肉屋で働く青年と仲間たちが切り抜けながら人間ドラマを展開。ゾンビも昔気質な緩慢な動きをするタイプであり、ダッシュしない。噛まれれば感染、頭を撃てば死ぬ。実に平凡です。
↑しかし、アメリカで葛が繁殖しすぎて侵略的外来種となるほど迷惑がられているとは知りませんでしたね。私は葛餅やら葛湯が好きですし風邪の引きはじめには葛根湯を飲むようにしているので、葛は有難い物だという認識しかなかったので驚きました。緑化とか飼料用としてアメリカ人の方から喜んで持って行ったらしいので別に日本が悪いわけではないとはいえ、何だか複雑です。日本には四季があったり天敵が多いせいでそれほど繁殖しないが、アメリカ南部は年中暖かく天敵もいないおかげで繁殖を止めるものがなく手が付けられないそうです。たとえ緑化になっても葛ばっかりではあまり意味が無く、緑の砂漠とも呼ばれているとか。B級映画もたまには勉強になりますね。
そんな葛を駆除するための新型農薬のせいで葛が人体に寄生するわけですが、ゾンビの体から葛のツルがちょっとだけウネウネ出てくるシーンが2回あっただけであとは何も無し。プラントゾンビと言っても普通に人肉を求めて襲ってくるだけの単なるゾンビです。葛要素がもっとあれば…まあCGをふんだんに使える規模の映画ではないんでしょうしツルが使えないとしても、葛湯を吐いて来るとか、水まんじゅう的なものを投げてくるとか何かほしい。アメリカ人は葛食べないのかな。
スプラッタ表現は安いながらもそれなり、爆発シーンは合成感濃い目ながらも回数多めでまあまあハデ。人間ドラマの方は肉屋同士の対立と友情、極限状況での若者の恋愛劇、愛する者の死そしてゾンビ化後に二度目の死を与えなければならない悲劇…などとゾンビ映画に必要であろうものは一通り押さえてあり、型通りすぎる気もしますが安心して楽しめるクオリティではあります。
↑ネクタイハチマキ姿で雄叫びを上げギターを振り回しゾンビをボコる市長。サブキャラながらも主役グループよりもよほど印象に残る。彼を主役にした方がよほど面白くなったんじゃないかと思いますが、残念ながら中盤でフェードアウト。あれだけ暴れておきながらなんのオチも無いとは逆に斬新。
ラストはメンバーの一人が葛ゾンビに噛まれたままで、その後どうなったのか全く触れられないのが嫌なモヤモヤ感を残しました。が、その後のスタッフロールでかかる葛ゾンビの歌が実に味わい深い余韻を上書きしてくれます。
葛ゾンビっていうかほぼ「葛の歌」みたいな歌詞でして、
いかに葛が今のアメリカ人にとって迷惑な存在であるか、
なんでそんなものを持ち込んでしまったのかという後悔、
こんなに繁殖するとは思わなかった等々の厄介な情念を悲し気に歌い上げた珍ソングとなっており好事家には一聴の価値があると言えるでしょう。
あと、葛は日本由来の外来種であるというせいか、元凶となった新型農薬を開発した科学者としてフクシマ博士なる日本人が登場します。これはなんだかちょっと嫌味を言われているような気がしないでもないですが…。低予算ゾンビ映画としてはそれなりに良好な出来と思われますのでその手のジャンルに理解のある方にはそこそこおすすめです。