監督がジョン・ムーア、主演がピアース・ブロスナンと有名どころが揃っているにも関わらず、
「
ジョーズ・リターン」並みにツッコミどころ満載のバカ全開になってしまったIT×サイコサスペンスな映画です。
なんでそうなったかは明らかで、本作の製作者はIT技術をテーマにした映画を作っていながら、本心ではITなどハッタリを効かせるための便利な小道具としか思っていないのが原因です。
本作における最先端IT技術の扱いは、まるで
平均的サメ映画におけるサメのようなぞんざいなものでしかありません。
それではサイコサスペンスの部分はしっかりしているのかというとこちらも砂上の楼閣で、サイコ野郎役が全くヤバイ奴に見えず、むしろ恐ろしくマヌケな奴すぎて恥ずかしくて観ていられないという致命的欠陥を抱えています。
そんなのに翻弄されまくる主人公も助っ人も異常にアホすぎて、もはや観客は生暖かい目で画面を見つめ続けることしか許されないという領域にまで堕ちています。
目に見えないIT技術を操るサイコパスが、実業家一家を恐怖のどん底に突き落とす!
■ピアース・ブロスナン主演の最新ハード・アクション・スリラー! 主演は、『007』シリーズで確固たる地位を築き、『スパイ・レジェンド』など今も第一線で活躍するピアース・ブロスナン。野心と自信溢れる実業家だが、最先端技術によりどん底まで落ちていく男を熱演。サイバー攻撃から家族を守る父親の戦いを描いたサスペンススリラー!
(松竹DVD倶楽部より)
主人公は航空会社の社長マイクで、タクシー業界におけるウーバーのようにスマホアプリでプライベートジェット機を手配する仕組みを開発し株式上場を狙う富豪です。
その社運を賭けた画期的なスマホアプリをプレゼンする、
という一世一代の大勝負の時に、あろうことかPR用の動画がフリーズ。
たまたま派遣で来ていたエドという男がそれをあっさり解決したことで彼をいたく気に入り、正社員登用したばかりか自宅に招いたりします。
デフラグしただけでデキる男扱い。
まさかウィンドウズのデフラグではないでしょうが。
それにしても超重要なプレゼンなのに動画がフリーズするとか
一体どんなヘボいPCを使っていたのか?
そしてなぜ派遣に直させようとしたのか?
そんなエドを自宅に招いたマイクでしたが、
WiFiの速度を改善してもらえたのは良かったものの。
エドは17歳になるマイクの娘にSNSでフレンド依頼してこっそり仲良くなり、
やがて自らも家族の一員のように図々しく振る舞いはじめ、
それを不快に感じたマイクはエドをあっさりとクビにしてしまいます。
それを逆恨みしたエドがITを悪用してマイクを公私共に追いつめていくのですが…。
そのやり口がスーパーハカーってレベルじゃねえです。
マイク宅に設置されたカメラ、モニター、ネットにつながっている家電製品全てハッキングして思うがままに操る。家の中はいくらでも見放題。
ちなみにこれを知ってマイクはカメラを全部叩き壊しますが、別に壊さなくても張り紙でもして塞げばいいと思うし、それ以前にネットワークから外せば?としか思えません。
さらにエドはマイクの奥さんの主治医のPCまでハッキングし、乳ガン検査の結果を書き換えて勝手にメールで通知したり、娘のやらしいシャワーシーンを盗撮して同級生全員に送信したりとやりたい放題。
一体どこの世界にガン検査陽性という重大な結果を携帯メールで事務的に通知する医者がいるというのか? アメリカってそうなの?
あといくら先進的な豪邸とはいえ浴室を撮影できるカメラがあるってのはどういうことですかね。
…まあそれはいいや。
ブチ切れたマイクは直接エド宅に乗り込んでボコボコにしますが…
殴るだけなの? 解決する気あるの?
エドはエドで、マイクの航空会社に対しても既にハッキング済みなのにさらなる過激な犯罪予告。
この会話を録音してりゃジ・エンドであろう?
警察も証拠なしでは取り合ってくれず、自力ではどうにもできないマイクは
「掃除屋」と呼ばれる正義のスーパーハカー(笑)を助っ人に雇います。
彼のクールでスタイリッシュな助っ人ぶりはある意味一見の価値があるかもしれません。
プロフェッショナルな仕事人気取りでやっているアレコレが実にアホ臭くてたまらない。
例えば開口一番にマイクのスマホをベンチに置かせ、謎の装置を重ねてウイルス(?)を除去し、その装置をポイッと公園のゴミ箱に捨てる。なんすかそれ…観客を何もわからないバカだとナメていないとこういう描写は出来ないと思う。
他にも
「あなた方のネット上の痕跡を可能な限り消したいから、過去5年間のPC使用履歴・場所・理由を教えろ」
なんて無茶ぶりまで飛び出す始末。お前はそれ答えられるんか…?
そして「ハッカーはクラウドを嫌うから、大事なデータはUSBメモリに保存しているはずだ!
奴をおびき出した隙にそれを盗んで警察に提出すればいい!」
ってお前、それマジで言ってんの?としか言いようのないミッションを発案しますが、
それ以前にエドをおびき出す方法が
「エドがよく盗撮しているウェイトレスの携帯を盗んで、エドにお誘いの連絡をする」
っていうね…
一体どれほどのクサレ脳みそであればそんなの思いつくの?
とか何とか突っ込む以前に、ウェイトレスの方は知らずに盗撮されてただけの人なんだから
エドの名前もアドレスも知ってるわけないだろっていう。
どんな幸せな奴ならこれに引っかかってくれるの?…ってまあ当然のように疑いもせず食いつくんですけどね。
まあそんなこんなでレゴブロックに紛れ込ませていたUSBメモリを無事盗み出し、警察に提出したマイクは当然逮捕されます。至極当たり前ですね。本当に一体何をやっているのか。逆に警察のあまりにも真っ当な対応ぶりに驚きました。
まあこんなようなクサレ脳みそ同士の争いなので、IT技術をテーマにしていようが何だろうが
最終的には取っ組み合いの肉弾戦がクライマックスとなります。
でも所詮スーパーハカーVSご老体なのでとんでもなくしょっぱい肉弾戦。
クリンチしてボディとかヒジとかね…。
逆にどういうリアクションしたらいいのよ?と聞きたくなるぐらいの盛り上がらなさに画面を正視するのも辛くなってくる絵面ですが、そこからのオチがまたカタルシスゼロの尻切れトンボ。
久しぶりに突っ込み甲斐のあるバカ映画でしたが…
バカ映画はバカ映画でも、観客をバカにし切って手を抜いたタイプのバカ映画なのであまり愉快なバカ映画とは言えないかもしれません。
まあ、ピアース・ブロスナンの熱烈なファンであれば暇つぶし程度には観れると思いますのでそういう方は旧作落ちしてからどうぞ。