ネイバーズ　感想

「ワナオトコ」と「パーフェクト・トラップ」の
監督マーカス・ダンスタン＆主演ジョシュ・スチュワートコンビの3作目。

と言っても、前作とのつながりはありません。
本作は単品で完結している映画です。しかし、
「危険な犯罪者の家に囚われた女性をジョシュ・スチュワートが助けに行く」
というプロットは「ワナオトコ」シリーズとほとんど変わりないように思えます。

だというのに本作の悪役はワナオトコと比べると全くの小物。
ワナオトコがホホジロザメだとすると、本作の悪役はせいぜいピラニアが3匹と言ったところです。
まあ「パーフェクト・トラップ」であれだけ超凶悪なサイコキラーを描いてしまったので、もうインフレ出来ないのは分かり切ってはいました。
そこで路線変更するわけでもなく、まさかの縮小再生産。
映像的にも安っぽいビデオ映画の雰囲気が強く、残酷描写もひどく控え目。
一見退化してしまったような印象が拭えません。

本作の舞台はアメリカのどこか山奥の田舎町なのですが、
麻薬を売ってる叔父の下で違法な仕事をしている主人公ジョンと妻ロージーを始め、
タイトルでもある「隣人」の一家3人も身代金目的の誘拐で稼いでいる犯罪者。
それだけでなく登場人物が軒並み犯罪者、というかこの町の人間がだいたい犯罪者である
という恐ろしく治安の悪い地域だったりします。本当にこんなとこあるのかな。

そんな隣人の犯罪行為を目撃してしまったために、
高跳び寸前でロージーが拉致監禁されてしまい、
ジョンが隣人宅へ侵入し救助を試みる…

という話です。
ジョンが隣人宅に侵入して怪しげな地下室を探索するくだりは
前2作でのノウハウを存分に活かしており、
張りつめた空気感が満ち満ちています。この辺は本当に手慣れた感がありますね。

とはいえ、何らトラップ的なものは無い。
隣人たちの「得体の知れなさ」があるうちはまだ恐怖感を持続することが
出来ていますが、そんな隣人たちの正体は意外と俗っぽい小悪党なうえに
演出的にも特にもったいぶることもなく、早めにバラされてしまいます。
拍子抜けと言えば拍子抜け。
しかし、サイコキラーという方向性はもう行きつくところまで行ってしまっており、そこを攻めるのはもう不毛なことなんだよというメッセージを感じなくもない。

身代金目的の誘拐で生計を立てていた隣人一家。
不気味なマスクを被っているので
レザーフェイス的ないかれたサイコキラーなのかなと思いきや。

お面を上げれば理性的な目をした計算高いオッサン。完全に金目当ての犯罪でした。
しかもこっちの方まで「これを最後に足を洗う」みたいな話をしていたり。
ジョンたちと隣人一家、どちらが犯罪稼業から足抜けすることが出来るのか？
本作はサイコキラーとの戦いというのではなく、
そんな小物犯罪者同士の泥臭い生存競争を過激な描写に頼ることなく
手堅く渋く見せるための映画なのかなと感じました。

いやーそれにしても地味すぎるだろう…
という欠点は確かに否定できないのですが、
それでも終盤で絶望的状況に陥ってしまい、そこからいかに逆転するかの
クライマックスは充分すぎるほどエキサイティング。
かなり手に汗を握ることになりますし、意外な人物の驚異的暴力性が発揮されるシーンは素晴らしいカタルシスをもたらしてくれます。
そのうえラストは下手な小細工で不快にしようとせず、スッキリ爽やかな余韻を残します。この監督はいくら途中で不快なものを見せようとも、トータルでは観客が嫌な気分にならないようにバランスを取って来る。こういう気遣いには実に好感が持てます。

特別すごい映画というわけでもなく尖った部分も無いボチボチなクオリティですが、
1時間半のサスペンスドラマのつもりで鑑賞すればかなり得した気分になれる良作だと思います。