最近ヌルい映画ばかり観ていたので、そろそろガチでシリアスなホラーで恐怖の疑似体験をしたいなあ…と思って今日はこれをチョイスしました。
いや、相当な出来でしたね。
2010年代のスラッシャーホラーはここまで先鋭化しているのかと驚きました。
この「今すごくヤバイ閉鎖空間に居る」という絶望的感覚は
初代エイリアンのノストロモ号にも匹敵するのではないかと思ったぐらいです。
本作はタイトルからは分かりにくいのですが、
「ワナオトコ」(09年)という低予算映画の続編です。
その前作の方は、
「空き巣のアーキンが目を付けていた豪邸に侵入したら、
そこでは罠で人を殺す趣味のサイコ殺人鬼が先にお楽しみ中だった」
という感じの内容で、映像は死ぬほど安っぽいのですが
殺人トラップを張り巡らすサイコ殺人鬼と
コソ泥アーキンの戦いが実に緊張感たっぷりに描かれた快作でした。
単なるスラッシャーホラーというだけでなく、
ただの小悪党に過ぎなかった主人公アーキンの精神的成長も一つの見どころでありなかなか深みのある作品だったのです。
時系列的にはその前作の直後らしいんですが、
冒頭でさっそく地下クラブで遊ぶ若者たちがトゲトゲローラーや吊り天井で見るも無残に大量ジェノサイドされてしまいます。
前作であれだけハッスルした後なのにいきなりスケールが100倍くらいアップした豪快なトラップ地獄を見せられ、その過激さとワナオトコのバイタリティに戦慄しました。が、同時に予算も100倍にアップしたであろうリッチ感が伺え、今後の期待も膨らむ良いオープニングでした。
その犯人ことワナオトコは
「一度の殺戮につき、気に入った人間を一人だけ持ち帰りコレクションする」
という特徴を持っており、今回はたまたま地下クラブの罠から生き延びた少女エレナが誘拐されてしまいます。
で、それを助けるためにプロの殺し屋(傭兵?)5人が雇われ、案内役として唯一ワナオトコから逃げのびた実績を持つアーキンも参加させられる…というのが本題です。
前作で尋常じゃないぐらい酷い目に遭いまくってようやっと生還したアーキンが傷の治療もそこそこにすぐにまたワナオトコの本拠地に侵入させられるのは観ていて非常に気の毒になってくる展開です。断らせてくれてもいいんじゃないか…。
しかしワナオトコの方も半端じゃない数の人間を殺しまくっていると見え、本拠地である廃ホテルの中には誘拐してきた人間もその死体も異常なほど大量に存在します。というか人間じゃムリ。
おそらくコイツを何とかしなければ全アメリカ国民が安眠できないと思われるくらい活動的なスーパーサイコキラーでしょう。そう考えると、アーキンが「逃げて半端に安心するより殺して確実な安心を得たい」というような心境になってもおかしくないかもしれません。
そんなバケモノと渡り合うために結成されたプロのチームがアジトへ侵入…
というのは非常に燃えるシチュエーションでもあるのですが、
プロを集めたと言いつつも結局リーダー以外は今イチ頼りにならない雑魚が多く、そこはちょっと物足りないポイントでした。
同じ殺され役だとしても、もうちょい冷静沈着な振る舞いで有能感を示してくれれば
トラップでやられた時の衝撃度も増すのですが。
針の壁、トラバサミ系、鉄の処女みたいなのから
ドアノブを握ろうとしたら急にナイフになったりと細かいものまで何でもありのトラップ地獄。
ワナオトコは自分の罠にうっかりかからないのか?と心配になるほどの密度。
安心できる空間が全く無く、グロ表現も全く容赦がないため
観ている側も始終かなりの緊張感を強いられ、気の休まる時がなかなか無い。
前作で恐ろしい修羅場を潜り抜けたおかげで、今ではツワモノの風格を漂わせているアーキンだけが素晴らしく頼もしく安心して観ていられます。
…とはいえ、そんなアーキンが「骨折して治療中の腕」を「もう一度わざと折らないと脱出できない」ような極限状況もあり、痛々しさという点でも本作は相当レベルが高い。
見た目は地味、本職も地味なサイコキラー・ワナオトコ。
しかしコイツに捕らえられると死を哀願したくなるほど
おぞましい目に遭わされてしまいます。その質も量もズバ抜けています。
コイツほど危ない殺人鬼もそうそういないでしょう。
しかしその分、そんな超危険人物と一対一で何度も戦う元コソ泥アーキンがものすごく漢気にあふれていてかっこよく見えます。前作でも本作でも、見ず知らずの少女を助けるために戦っているのでなおさら。
その点があるから、このシリーズはただの悪趣味な残酷スプラッター映画とは一線を画する
「熱さ」を持っており、ただ気分が悪くなるだけでなくどこか爽やかな味わいをもたらしてくれるのです。終盤などもう感動の嵐。実に素晴らしい良作でした。
拷問的スプラッター描写は絶対ダメ!…という人でなければオススメです。(前作も)