デビルズ・トレインとかいう邦題だったり、ジャケットに「魔物」とか書かれていますが、
これは人狼もののイギリス映画(2015年製)です。
人狼イギリス映画と言えば、ニール・マーシャル監督の「ドッグ・ソルジャー」を思い浮かべる人も多いかと思われます。あちらは相当な低予算ながら、飛び出た内臓を押し戻したり、人狼とボクシングし始めたりと結構弾けたアホっぽさが楽しい良作でした。ただ、画面がめちゃくちゃ暗くて観づらいのが難点でしたが。
本作はそんな「ドッグ・ソルジャー」ほど安くはなくふざけてもいない、普通に真面目に撮られたオーソドックスな人狼ホラーです(でもやっぱり画面は暗い)
イーストボロー行きの夜行列車が郊外の森を走っている時に事故で停止してしまい、
そこに人狼が襲撃してくる。
という至極シンプルな話。
人狼とは何なのか、なぜそこにいたのか、という設定もほとんど語られずただただ一夜のサバイバル劇だけを見せるタイプのモンスターパニックです。
電車が舞台で主役が車掌。たまたま乗り合わせた乗客8人との人間ドラマも一応それなりに描かれてはいる。
ただその乗客たちのほとんどが自分勝手なクソ野郎という点には多少ウンザリさせられます。そんなクソ野郎共が豪快に喰い散らかされるのが見どころ、と言ってしまえばそれまでですが。
…と言っても、本作は血糊こそドバドバ撒き散らかされるものの、
実質的にはスプラッター描写がかなり少な目。
内臓が飛び出してる奴など、なんとたったの2人しかいません。
それでも英国ホラーか? というクレームはさておき、
あとは人狼によって画面外に連れ去られ、血しぶきが飛び散るというような処理の仕方で登場人物が退場していきます。
まあこれはこれで観客に残酷な空想を促すような見せ方なのでさほど悪い演出ではないと思いますが。特にトイレでやられた奴。
前述の通り、乗客たちはクレーマーまがいの嫌な奴が多いので
1人やられるたびに「やったぜ!」と気持ち良くなることができます。
主人公のジョーは車掌で、そんな彼が想いを寄せる女性は添乗販売員。
労働環境的にも恵まれていない彼ら2人がこんな極限状況においても
ろくでもない乗客に振り回されるのは観ていてストレスがたまります。
…が、そんな彼らも最後まで良き車掌ではいることが出来ず。
停まった列車を直してくれた修理工の青年を見捨てて発車しちゃったり…
一度見殺しにしたのにも関わらず、ジョーの大ピンチに助けに来てくれたその青年をもう一度あっさり見殺しにしてしまったり…。
乗客の中でも唯一の良心と言っていい存在だった修理工の青年が気の毒でなりませんでした。
なぜ彼は2度も見殺しにされるなどという非情な扱いを受けてしまったのか。
ここでジョーたちにこんな非道な行いをさせずに、ちゃんと彼らに感情移入できるようにしておけばラストにももう少し違った余韻を感じさせることが出来たはずなのに。惜しい。
「我々は数時間前までは赤の他人でしたが…」
というジョーのちょっといいお話は一体なんだったのか。
極限状況で協力し合おうとも絆など全く芽生えず彼らは結局最後まで赤の他人でした。
隙あらば他人をいけにえにして自分が助かろう、という人間が多いのはリアルなのかどうか。
人狼に噛まれた人間は人狼になってしまう!
というネタも当然あるのですが、
序盤で最初に噛まれた人間が人狼と化すのはほぼラスト付近になってから。
ペース配分的にスローすぎる…
人狼の造形そのものは悪くないんですけどね。
前半に襲ってくる奴が圧倒的に強くてなかなかの絶望感を与えてくれるのに、
後半で出てくる仲間の人狼たちが細身でイマイチ弱弱しい。
普通逆なんじゃないかと。事態が悪化していくにつれ緊張感が無くなっていく展開というのもなあ。色々ともったいない気がしましたね。
…という感じに何やかやケチつけたくなるような粗っぽさはありますが、
充分最後まで退屈せず楽しめるくらいのクオリティはあるので
モンスター映画好きにはそこそこおすすめできます。