昨日は犬が人を襲う映画で思いっきり地雷を踏んだので、
今日は猫科の猛獣が人を襲う映画に賭けました。
ありふれているようで、実は意外と希少なトラ映画。
嵐の夜。出口なし。密室に放たれた飢えた獣―。
ケリーは、母を亡くしてからずっとひとりで自閉症の弟トムの面倒を見ながら暮らしてきた。大学進学が決まり、トムを施設に預けることにしたケリーだったが、母が銀行に残していた預金は、一儲けを企む義父のジョニーがすべて使い込んでいた。その金で手に入れたのは、1頭のシベリアンタイガー。だが、ジョニーはトラの入った檻を家の中に放置したまま外出してしまう。その夜、ケリーが目を覚ますと、目の前に飢えた獰猛なトラが・・・!超大型ハリケーン襲来のため、外側から完全に窓や扉を塞がれ、密室と化した家の中で、ケリーと弟は果たして生き残ることができるのか!?
(アメイジングD.C.HPより)
密閉された自宅の中に、トラと人間が閉じ込められる…なんて作り出すのが地味に難しそうなシチュエーションです。
上記の公式説明文では何でトラなんぞ買ってきたのか全く分からん風になってますが、
主人公ケリーの継父が
「自宅の庭でサファリパークをやって一山当てる」
…などという日本人には現実的なんだかアホなんだかよく分からん野望を抱いており、
そのためにトラを買ってきたというのが導入部です。
ついでにハリケーンも来たので家の窓を全部板で打ち付けて密閉することで
この珍しい状況設定を作り上げています。
主人公ケリーは、そのトラ購入代のために預金を継父に奪われてしまい、
自閉症の幼い弟を施設に入れることも出来ず、
自分で面倒を見続けなければならなくなり、
そのせいで大学に進学することも出来なくなります。
別にトラに襲われなくても充分不幸のどん底であり、それ系のヒューマンドラマ映画が別に1本作れそうな境遇。
そこまでして弟に尽くしても感謝どころか「触るな!」としか言われない。
いくら血の繋がりがあると言っても、あまりにも何の楽しさも見返りもない。
弟に対する苛立ちは募る一方。そしてついには弟を殺す妄想までしてしまう。
ここら辺はアニマルパニック映画的には一見余分な要素に見えますが、いざ危険が迫った時に弟を助けるのか、見捨てるのか。という葛藤を見せ場に持ってくるためのお膳立て。
中盤では「虎に喰われるのも悪くない死に方だ」などと弟が発言する…が、それもケリーの妄想だった。というシーンまであり、死んでほしい願望がチラついても仕方ない、と思わせるための陰鬱な前振りです。
そしてふと気づけばなぜか家の中に空腹のトラがウロウロしている…
そのうえドアも窓もハリケーン対策を理由に全部塞がれている…
という悪夢的状況に陥りますが、この時点ではまだトラが可愛く見えます。
ネコ科のちょっと得なところですね。
とはいえ当事者はそんな呑気なことも言ってられず、
ケリーは慌ててランドリーシューターの中に隠れます。
とっかかりもないツルツルのステンレスに必死でへばりつきますが…
汗ダラダラで床に落ちる滴がトラに見つかってしまい…
このシーンは最高にスリリングです。
まさかトラがこんなにホラーな生き物だったとは…
頭では分かっていてもここまでリアルに疑似体験させてくれるトラ映画もなかなかないでしょう。
っていうか他のトラ映画って何かあったっけ。
とにかくここは「
ブラックフット」のクマ地獄に勝るとも劣らぬ超パニック映像。
もし自分だったら?という観点で見ていましたがこの時点で私は死にました。
しかし「ブラックフット」のバカップルとは違い、こっちの姉弟はどっちも死んではいけないキャラクターなのは明らか。そういう意味では安心して観ていられるのですが。
密閉された家の中には姉弟とトラしかいないため、
見せ場を作るためのいけにえ役がおらず、
スプラッター的なサービスシーンが全然出てきません。
結局姉弟に多額の生命保険をかけてこんな状況を作った継父は外で一人酒だし。
つーかそんな殺害方法で保険金が出るのか?
激しく疑問ですが、自宅の庭にサファリパークを作ろうとする男の考えたことなので仕方ないかもしれません。
トラに襲われてもマイペースに足を引っ張る弟にフラストレーションがたまるかもしれませんが、一人だけ脱出に成功したケリーが弟を助けに戻るかどうか悩んだ末に決断を下すシーンはやはり本作の大きな見どころの一つですし、それがあったからこそ感動を呼ぶラストになっているのです。
のですが、個人的にはそんなことより最後にトラに喰われちゃう継父のシーンの方に感動してしまいました。やっぱり喰われてくれないとスッキリしないよね。
誰も喰えなかったら2週間も絶食していたトラがかわいそうだし。
ただ、どうせならもっと悲惨な叫び声が欲しかったところですけどね。
若干あっさりしていたのが本作唯一の不満でした。
「ブラックフット」の捕食シーン並みに本気でやってくれれば後世まで語り継がれる名作になったかもしれないのに。
…というのはちょっと大げさですが、アニマルパニック映画としてはかなりの良作でした。
迫力も可愛さも素晴らしくリアル。CGでも人形でもなく本物のトラですからね。
本物のトラが暴れる映画を観たい気分の時は「バーニング・ブライト」これしかないでしょう。