(※本記事には本作の結末だけでなく「(r)adius/ラディウス」のネタバレもあります。)
「ホステージ」だの「フッテージ」だのと似たような単語の入ったタイトルの映画が最近多すぎて何が何やらという感じですね。
これもそんなホッテージ何とかの山に埋もれてしまいそうな小ぢんまりとしたサスペンス映画ですが、それなりに個性的な内容ではありました。
記憶を失った男―
何故監禁されているのか? 自分は一体誰なのか!?
誰かに殴られて記憶のない男ー目が覚めたら全く見知らぬ、異国の家畜小屋に監禁されていた。屈強な男たちに監禁されているが、英語が通じず何故監禁されているのかわからない・・・。時折、男たちに脅され殴られながら、何かの目的で撮影される男。自分は一体、何者なのか、男たちの狙いは何のか!?唯一、手に入れた携帯電話で緊急電話を掛けまくる・・・やっとのことで繋がった相手はCIA。男が米国人なら現場を特定して助けると伝えられる・・・英語を話す男は、自分が米国人の可能性が高いと必死に説明して、監禁現場の手掛かりを捜査官に伝えるが・・・・。
(アメイジングD.C.HPより)
目が覚めたら見知らぬ部屋に閉じ込められていた…
というのはありがちなデスゲーム映画の出だしですが
本作はそっち系ではなく、クロアチア人に誘拐されてボスニア・ヘルツェコビナのどっかにある家畜小屋に監禁された記憶喪失の白人の話です。
ボスニアが舞台ってことはまた
民族対立がどうのこうのってやつかなあ…
と不安になりますが、幸い本作は違いました。
あの辺はあまり治安のよい国ではないイメージなので、
そんなところで汚い家畜小屋に監禁されるというシチュエーションの恐ろしさも相当なレベルではあるはずです。
そのうえ相手のクロアチア人は4人組で拳銃やナイフを所持しておりいつ殺されるか分からない。
おまけに英語しか喋れない主人公とは全く意思の疎通もとれず、ただでさえ記憶喪失なのに相手が何を考えているのかすら何一つ分からないという絶望的状況。
いくらでも恐怖感、緊張感を高められそうなサスペンス映画ではあるのですが…。
あいにく本作は全編通してかなり呑気なムードが漂っており、ほのぼのと微笑を浮かべながら鑑賞することになりました。
まずクロアチア人グループの一人から携帯をうまくくすねた主人公。
911からCIAにつなげてもらい、必死で助けを求めるのですが、
「アメリカ人じゃないと助けることができない」
と記憶喪失者にとっては大変面倒なことを言われてしまいます。
「お前本当にアメリカ人か?」という問い掛けを何度も何度もやたら繰り返すCIAとのやりとりが異常にグダグダしていて辟易します。終盤はむしろ笑えて来るぐらいしつこいです。
家畜小屋にいるヤギがちょっとカワイイのですが、
主人公も必死で助けを求めているはずなのに、
ヤギにエサをやりながら電話している様子にいまいち深刻さが感じられません。
なんでそんな余裕なのか。
一応シリアスな監禁サスペンス映画のはずですが
ヤギが画面に映り込みまくるせいで何だか牧歌的な雰囲気に…。
つーか監禁するなら拘束ぐらいしたらどうなんですかね。
と思ったら中盤で一度主人公を縛り上げてさるぐつわを噛ませるのですが、
なぜかすぐ解いてくれたりします。本当になぜだ。
クロアチア人グループは一見ギャング的なやばそうな集団に見えながら、
主人公を小突いたり怒鳴ったりするだけで、やることが異常にヌルいです。
しかししょっちゅう家畜小屋に出たり入ったりしては小突くだけなので
何をしたいのかが全然分からない。
そして主人公が携帯を持っているのではないかと疑われ、
クロアチア人に尻の穴までまさぐられる羽目になるのですが、
彼が携帯を隠したのは自分の尻の穴ではなく、ヤギの尻の穴でした。
結構広い家畜小屋なのに…他の場所は全く候補に上がらんのか?
なんでみんなそんなに尻の穴にこだわるんだ?
あとヤギの尻に手を突っ込んだらあんなに大人しくしてないだろ…
何回か出し入れしてたけど普通に嫌がられると思う。
主人公が携帯を使うシーンを押さえようと聞き耳を立てるクロアチア人トリオ。
なんでこんなマヌケでコミカルな絵面にしてしまったのか。
しかし結局携帯は取り戻せずじまい。
番号分かってるんだから鳴らせばいいだけなのでは…。
主人公からカネを巻き上げようと単独で入って来たクロアチア人。
と思ったら外の銃声に気を取られて振り向き。
これは千載一遇の反撃好機とばかりに主人公が殴り掛かるのですが…
「ポコッ! ペチッ!」という擬音が似合いそうなヘッポコパンチに笑いを禁じ得ませんでした。
「それはもしかしてパンチなのか?」と言いたげな顔になったクロアチア人の反応もこの手の映画ではあまり見られない面白味があり、なかなか味わい深い珍シーンとなっております。
まあそんなこんなでCIAやクロアチア人相手にしょうもないやり取りを繰り返し、
衝撃のラストになだれ込むんですが…
記憶喪失の男の正体は実は真性クソ外道だった!
っていうね…
いや、これ、昨日見た「(r)adius/ラディウス」と全く同じオチなんですけど。
これはこれで逆にビックリしました。
今後記憶喪失ネタを見たらまず「実はゲス野郎だった」オチを想定してしまいそうです。
ラストシーンは思わず「そ、それで…?」とつぶやいててしまうぐらいアッサリしたものでした。三面鏡を使った演出はすごく意味深ではありましたが。
総評としては、ヤバイ国でヤバイ状況なのに全くスリルを感じさせない能天気さ、
主人公が実はゲスだったという真相、日本のお役所みたいな仕事っぷりのCIA、尻に手を入れてもなんともないヤギなど見どころには事欠かない、まあまあ印象に残る作品でした。