何だかものすごくありがちでつまらなそうなタイトルがついてますが、
これは中国映画です。
ちゅうか本作においてこの巨大ワニは人を喰ってません。
むしろ、中国人の方がワニを喰いまくり!
ジャケットを見ても、逃げるどころかワニに突進していますからね。
ワニ映画として見るとズバ抜けて特異な珍作と言えるでしょう。
「ザ・チャイニーズ ~ワニ喰い人間襲来~」っていうタイトルの方がどう考えても正しいんじゃないの?
…と突っ込みたくなる本作のあらすじですが、
少年シャオの父親が経営するワニ園は経営が破綻し、ワニたちは高級食材としてレストランの店主に売られることに。
その中にはシャオお気に入りの巨大ワニも含まれていて、シャオを深く悲しませた。
ワニたちを引き取り、意気揚々とレストランでワニをさばいていくコックたち。
巨大な包丁で頭をたたき割られ、絶命していく仲間のワニたちを悲しげに見つめる巨大ワニ。
そして、その悲しみが怒りに変わった時・・・。
仲間を目前で惨殺された巨大ワニの恐ろしいまでの復讐がはじまろうとしていた! !
(アメイジングD.C.HPより)
「コックにさばかれる仲間のワニを悲しげに見つめる巨大ワニ」ってさあ…
もう完全にワニに肩入れして鑑賞したくなるじゃないですか?
中国人は何を思ってこんな映画を大金かけて製作してるの?
そんな本作は、やっぱり何かもう導入部から完全にワニは食い物扱いされてます。
ワニ肉が旨いという話は確かに聞いたことがありますが、
それにしてもワニ・パニック映画においてすらワニをただの食材としか
扱わない中国人の悪食ぶりにはやはり驚きです。
ワニもやっぱり養殖ものより野生の方が旨いのか?
というか、こんなの見たらもう食物連鎖的に
中国人 > ワニ > アメリカ人、オーストラリア人などの図式が頭の中に出来上がってしまいます。
普段は西洋人がワニの脅威から必死で逃れるような映画ばかり観ているのに、
こっちは中国人の脅威に晒されるワニを応援しなければならないような映画。
いきなりの価値観の反転に私の好奇心もちょっとどこを向いていいのか混乱します。
経営破たんしたワニ牧場のワニたちが、仲の良い少年と引き離され、
哀れワニ料理専門店に売られて行く様は涙なしには観られない…
というほどの演出も別にありませんが、
ワニ料理専門店なる存在にまずビックリだし
ワニ・パニック映画の導入舞台がワニ料理専門店というのがもうアレだ。おかしすぎる。
スーパーマンみたいなTシャツのコックに捌かれるワニ。
次々と頭をハンマーで割られてシメられるワニたちは
本当にかわいそうで切ない気分になってきます。
しかしノリは完全にコメディ映画のそれ。
中国映画って胸糞悪いシーンでも平気で笑いを取りに来ますよね。
こんな光景を見せられたらそりゃ巨大ワニも必死で逃走しますよ。
どうでもいいんですが、ワニと仲の良い少年シャオの父親は
ワニ牧場経営者ではなくて警官でした。
そんな彼の射撃が下手だという演出に使われたのが、これ。ダックハント。
一体いつのゲームだと思っているのか?
本作の公開年は2013年です。
料理店から逃走して茶畑を徘徊する巨大ワニ・マオ。
ワニのCGはものすごく出来が良いです。何で?
レイクプラシッドシリーズよりもかなり上。
しかし内容が内容なだけに、マオに恐ろしさなどほとんど感じられません。
むしろかわいいです。なでたい。
だからこそ、異常に強欲で何でも喰う中国人に追い回されるマオが
ひどく悲劇的な存在に見えて仕方ない。
特にワニ料理専門店の奴らは邪悪に足が生えたような悪魔にしか思えず、
なんと女子供を吊るしてエサにしてマオを捕らえようとします。
が、心優しい巨大ワニ・マオはそんな少年たちを食べるなんてことはしません。
…ただ、この女性はサイフをマオに喰われてしまっており、
隙あらば腹の中に入ってサイフを取り戻そうと考えてたりします。
唯一マオをかばい続ける少年シャオだけが本作の良心と言えるでしょう…。
「ワニにも情はあるんだ。ワニが冷酷だというのは間違いだ」
ワニ牧場が経営破たんしたからって料理屋に売り払ったオッサンが
今さら何を偉そうに…冷酷なのはお前の方だろ…
という感じですが、マオの方に感情移入して観ている身としては
もうこのハゲだけが頼りです。
コメディ寄りの映画でありながら、ワニ視点で見るとこれ以上ないほどの
絶望感が漂う鬱映画。
だって捕食者がそこら中に密集してて追いつめてくるんだもんな…
ハッピーエンドになるビジョンが全く浮かばない…
このハゲを信じたかったんだよ…
マオも観客も…。
でも、
「結局それかよ!!!!!」としか言いようのないやっつけ感あふれるオチを見せられて、
私は大いに気落ちしてしまいました。
最期にマオが見せる涙が悲しい。
いや、ホントに何を見せたくてこんな映画を作ったのか。
動物好きな人が見たら陰鬱な気分になることは免れないと思われますし、
ワニ・パニック映画を期待してもこれ以上ないほど裏切られるので
一体どんな人がこの映画を楽しめるのか全く想像もできませんでした。
あくまでも世界各国の珍作映画を追求したい道楽者のみが鑑賞すべきかと思います。