国連軍の白人女性を喰い殺したことで話題になった巨大ワニ「グスタヴ」
を取材し生け捕りにするため、
アフリカのブルンジ共和国へと赴いたアメリカ人ジャーナリストたち。
しかし、そこは巨大人喰いワニの脅威だけではなく、
ツチ族とフツ族の民族対立による内戦で銃弾が飛び交い虐殺が日常的に横行する
この世の地獄であった。
平和ボケしまくっているアメリカ人たちは果たして生きて帰ることが出来るのか?
という感じの実話を基にしたワニ映画です。と言ってもほとんど創作かとは思いますが。
能天気なアメリカ人グループが、内戦で猛烈に危険な国へ気軽に入ってみたらえらいことに…というストーリー展開を見ていると、「ランボー 最後の戦場」でミャンマーに立ち入ったボランティア集団を思い出します。
白々しい正義感を振りかざしていたアメリカ人が現実を思い知るという教訓も同様ですね。
しかし本作ではランボーのように颯爽と助けてくれるヒーローはいません。
まあ、巨大ワニのグスタヴがランボーのようなポジションに見えなくもないんですが。
「モンスターを作り上げたのは、戦争に明け暮れる人間たちの方なんだ」
やっぱりランボーっぽいな…
「アフリカで黒人が死んでも誰も気にしないんだ」
…というセリフが出てきます。
実際、遠く離れた平和な国に住んでいると確かにその通りです。否定のしようがない。今もおそらく誰かが死んでいることでしょうし。
まあ例え自国内であろうと誰か知らない人が死んだって特に気にしませんから、それがアフリカならなおさらってとこでしょうか。所詮他人事なわけです。
しかし、実際にそんな国へ行くとなるとそうも言ってられない。明日は我が身。かと思うのですが、本作のアメリカ人ジャーナリストどもはどこまで行っても緊張感ゼロ。主人公も存在感ゼロ。
自分が理不尽に死ぬなんてことは毛頭思っていない。
ワニは絶滅寸前だから人間より大事なんだ~とか、いけにえに捧げられた犬を見殺しに出来ないわ~とか頭悪いこと言っちゃう。エサとしての資格充分です。
黒人の命は軽いと言ったものの、民兵は薬をやってて見境なし。
白人が見逃されるかというとそんな感じでもなく
いつ撃たれてゴミのように捨てられるかも分からないようなひどい情勢。
ただでさえ猛烈な危険地帯なのに、さらに巨大人喰いワニを生け捕りにするためには一体命がいくつあれば足りるのでしょうか?
本作は数あるワニ映画でも最も困難なミッションを提示した映画と言えます。
虐殺現場を偶然目撃してしまったカメラマンの視点。
見つかれば即やられる状況。
人を殺すこと以外に何も考えて無さそうなほど獰猛で血も涙も無いアフリカ民兵。
ワニよりも明らかにこっちの方が怖いんですよ。
ブルンジ、ルワンダ内戦をテーマに盛り込むことで
人喰いワニに社会派映画としての側面を持たせたかったのはわかるんですが、
若干焦点がぼやけてしまった感。
アメリカ人グループにもっと共感できるようにしておけば
絶望感がありすぎてドキドキできたのかもしれないんですが。
いかんせんこの丸腰のカメラマンが無事逃げ帰ったのに対し
「なぜ何もせず逃げてきたの!なぜ虐殺を防がなかったの!」
と責めてしまうような脳内お花畑リポーターなど
さっさと喰われてしまえとしか思えません。
「ワニなんかもうどうでもいいわ!虐殺を止めるべきよ」
なんてワニ映画で絶対言っちゃいけないことですよ。
とはいえ脅威なのはアフリカ民兵だけでなく、グスタヴの方もやっぱり恐ろしく獰猛で俊敏で強靭。
レイク・プラシッドのワニたちが束になってもかなわないような暴れっぷりを存分に見せてくれます。
こういう追いかけっこを引きの視点で映してくれるワニ映画は珍しい。
どうでもいいとか言われたわりにはワニ映画としての満足度もかなり高い方。
惜しむらくは、前述の脳内お花畑リポーターが喰われなかったことですね。
あれほどまでの馬鹿っぷりをさらけ出しておきながらどうしてあんな奴が生還してしまうのか。
モンスターパニックの基本のキとも言える
「アホの踊り喰い」
そこを押さえずして観客を楽しませようなどとはおこがましいにもほどがある。
アフリカの過酷な現実を突きつけたり、ワニの上手な見せ方に腐心するあまり
「爽快感」
をどこかに置き忘れてしまった。
本作はそんな「仏作って魂入れず」という言葉がぴったりなワニ映画でした。
…というのはちょっと言い過ぎですかね。
まあワニ映画業界も魂入れる以前にそもそも仏の形にもなってなかったり、
魂だけは立派だけど見た目はカスだったりと
サメ映画ほどじゃなくても映画業界における地獄の釜の底みたいなもんなので
相対的に見れば本作はトップクラスの良作ワニ映画と言えるでしょう。