人には誰でも、「人生観を変えた出会い」というものがあるでしょう。
それは人間に限らず、たった一冊の本だったり、一曲の音楽だったりすることもあります。
私の場合はまさしくこの「トラックス」がそれでした。
当時18歳の私にとって、
映画と言えば「ジョーズ」とか「プレデター」などのような
健全極まりないメジャーな娯楽大作のことでしたし、それ以外の物に目を向けたことなどありませんでした。
そんな人間がテレビ東京でさりげなく放映されていた本作をうっかり鑑賞してしまった時の衝撃と言ったら…それはもう筆舌に尽くしがたいものがあったのです。
「こ…こんなヘンチクリンな映画がこの世に存在したとは!?」
その後、私の所有するテレビはだいたいテレ東が映りっぱなしになり、
テレ東もそんな私の期待に応えるかのように
「アベレーション」だの「ガジュラ」だの「コモドリターンズ」など変すぎる怪作を次々と連発。そんなテレ東に魅入られてしまった私は、
今ではすっかり変な映画やクソ映画を漁るという特殊な趣味嗜好をこじらせすぎて
ついにはこんなブログまで始めてしまうような難儀な人間が出来上がってしまったというわけです。
まあそんな自分語りはどうでも良いとして、
この97年のホラー映画「トラックス」ですが、
久々に見直してみてもやはり身震いするほど途方もない珍作クソ映画でした。
本作の概要は
「ネバダ州エリア51の近くにある田舎町で、
トラックが突然意思を持ち人間を襲い始める。
ドライブインに逃げ込み籠城した町民たちは生き残れるのか!?」
という感じ。
ある日何かが人類に反旗を翻す…のはまあ良い。
しかしなぜ、トラック限定なんだ?
誰でも疑問に思うことでしょうが、
作中人物は大してそんなことを不思議がったりしません。
乗用車は普通に運転出来るし襲ってくることもない。
あくまでも勝手に動いて襲ってくるのはトラックだけなのです。
乗用車とトラックの違い…
もしかして、人間に酷使されたことに反発を覚えたのか?
…なんて想像してみましたが、どうも逆に退屈してたかららしいです。
このおじさんはことあるごとにトラックの心情を推測し代弁してくれるのでおそらく間違いはないのでしょう。
「ヒマを持て余したトラックが人間を襲う」
なんというプロットの映画か!
しかもこれがコメディ調ではなく完全にシリアスな映画として撮られていることに感動を禁じ得ない。
「トラック限定」
とは言ったものの、なぜかおもちゃ屋のラジコントラックまでもが電撃参戦!
特に理由もなく郵便配達人のおじさんに戦いを挑む!
「ラジコントラックVS郵便配達人」
珍作映画マニアの好事家にとっては夢のようなマッチアップと言えるでしょう。
普通に考えればラジコンごときに勝ち目はありませんが…?
まずはラジコントラックが郵便配達人の足元を崩していく!
改めて見ても体格差は歴然。
果たしてラジコントラックに勝算はあるのか?
意外とダメージがあったことに腹を立てた郵便配達人。
しかしまだ余裕があります。
こんなチビトラックごときに負けるはずがないという人類の驕り。
それが文字通り足元をすくわれる原因となるのでした。
これでもかと体当たりしてくるラジコントラックに思わず後じさりして大転倒。
起き上がる間もなく、執拗に頭部への打撃を加え続ける狂気のラジコントラック。
一応コイツは勝手に動いていることになってますが、
これはつまり同じように人が操作すればラジコントラックでも
人を殺害しうるということでしょうか?
ラジコントラック、無傷の完全勝利。
脳みそ混じりの返り血に染まったその姿は、もはやチビなどと馬鹿に出来ない風格すら感じさせる。意外と気合の入ったグロ表現に製作陣の本気具合がうかがえます。
とはいえ、このラジコントラックと郵便配達人の激闘は
ストーリーの本筋に一切関係がありません。
そのころ、ドライブインの方では…
複数台のトラックによって主人公たちはドライブインにほぼ軟禁状態。
トラックなんて小回り効かないんだからいくらでも逃げられるだろ?
とか言ってはいけません。
たとえ排水溝に隠れたところで、積んである土砂で生き埋めにされたり、
排気ガス攻撃で苦しむことになりますからね。
知能を得たトラックが何をしてくるのか読めないうちはむやみに飛び出さないのが利口です。
人間が地球をダメにしたことによって、
トラックがヒマつぶしに人間を襲うようになった。
薬物中毒にでもなっていなければ絶対思いつけないようなナイスアイディアですが、
企画を立てた人物はともかくこんな映画に
出資したり、GOサイン出したり、くそまじめにシリアスに撮ってしまうスタッフたちは
一体何を思って仕事していたのか?
そんなことについて思いを巡らせるとたまらない気持ちになります。
そしてトラックと人間との激しい攻防。
これに意外と金がかかっていることがまた驚きです。
結構車両を破壊していますし、派手な爆発シーンも何度かある。
低予算の手抜き映画ではなく、しっかりした絵作り。
一体何が製作スタッフをそこまで駆り立てたのか。
そんな狂気に満ちた本作ですが、一番の見どころはもちろんこの
「知能を持った無人トラックたちによる会議」です。
誰もが笑い転げるであろうこのシーンですが、
演出的にはあくまでもシリアス。
クラクション、ワイパー、ヘッドライト、ウィンカー、
持てるもの全てを駆使して意思表示し、トラックを知能ある脅威として
描こうとした製作スタッフには頭が下がります。
「トラックのくせに頭がいい」
「トラックのくせに」
トラックと言えば頭が悪いイメージなんですかね。
そんな賢いトラックは燃料が切れそうになり、
「殺されたくなかったら燃料を入れてくれや」というメッセージをジェスチャーで伝えてきます。よく伝わったなあ。
しかしもっとずるがしこい主人公は
「こいつらディーゼル車だけどレギュラーガソリンを入れてやる。腹を壊すぜ」と実に残酷な策略に走ります。
特に効果ありませんでしたけどね。
「人間は自分たちが世界を支配していると思ってるけど―――」
本当はトラックが支配しているのよ。
…とは言いませんがね。
なんかこの辺が本作の主張するメッセージっぽいのは確かですが、
だから何でトラックなのよ?
という疑問に答える気はやはりないようです。
そして籠城の甲斐あってついに救援ヘリがやってきました。
ところが爆発炎上したはずのリーダートラックが再び来襲!
間一髪で脱出成功!助かった!ヘリで来てくれた人ありがとう!
かと思いきや…
その救援ヘリもまた無人で動いていたのでした、
という無情なバッドエンディング。
…
いや…
トラックだけじゃないのかよ!!!
ということで、古いし今更誰も見なさそうな映画だからって
超衝撃のラストまで全部ネタバレしてしまいましたが、
非常にオススメの殿堂入り珍作クソ映画なので
興味を持った人はぜひご覧になってみてください。