製作:1999年アメリカ
発売:ワーナー・ホーム・ビデオ
アルツハイマー治療方法の研究のため、太平洋上に建設された海洋医学研究施設アクアティカ。そこではアオザメの脳組織から治療薬を作り出す実験が行われていた。しかし遺伝子改造により知能を増したアオザメが脱走し施設を破壊。取り残されたスタッフは沈みゆくアクアティカから脱出することができるのか。
「ディープ・ブルー」と言えば、「ジョーズ」以外で唯一賞賛に値するサメ映画として、サメ映画ファンの間では神格化されてきた名作中の名作です。
私も本作を何度観たかと問われれば「100回から先は数えていない」と答えるほどに繰り返し観た作品であり、本来であればあまりにも定番すぎて逆に今更ブログで取り上げるような題材でもないのです。
ではなぜ今日あえて「ディープ・ブルー」なのか?
と言うと、明日2018年9月5日はまさかの続編「ディープ・ブルー2」の国内盤リリース日だからです。
いや、本当にまさか19年も経って2作目が作られるとは予想だにしていませんでした。
私は変に先入観を持ちたくないため前情報をなるべく入れないようにしていますが、それでも劇場公開無しでいきなりDVDリリースという時点で色々と察してしまう部分はあります。
それでもあの伝説的サメ映画の正統続編には違いない。ここは前日にしっかり本作を復習し、あえて「ディープ・ブルー2」へのハードルを限りなく高く設定しておくのがサメ映画マニアとして製作者への礼儀だと思います。
さて、いくら定番サメ映画とはいえ、私が最後に見たのは15年ぐらい前のこと。いい感じに記憶が薄れています。その間に大量のクソサメ映画を日常的に摂取してきたり、逆に「ロストバケーション」や「海底47m」と言ったサメ映画史上に輝く傑作を観てきた2018年の今、本作がどう見えるのか。
まず、アルツハイマーの治療薬としてサメの脳を改造しているというのがユニークです。今でこそ改造されていない部位などもうないのではないかというぐらいあちこちイジられまくっているサメ映画のサメですが、本作は荒唐無稽と感じられるようで割とそうでもないギリギリのライン。何でも極端なことをすればよいというものではなく、バランス感覚が肝要です。導入部における各登場人物の見せ方も非常にスマートで過不足なく、本作の後なぜか凋落の一途を辿るレニー・ハーリンのバランス感覚が冴え渡っています。
↑コックが飼ってるという設定でインコが出てました。
鳥が出てくるサメ映画は良いサメ映画の法則。
しかし、海洋施設の住み込みコックが調理場でインコを放し飼いとは実におおらかな職場ですね。鳥類大好きな私でもさすがに疑問を感じざるを得ない。料理にフンとか羽とか入っちゃうかもしれないでしょ。そしてオヤツとして生クリームを食わせるコック。間違いなく健康に悪いと思う。
↑アルツハイマーの治療薬を作るべくDNA操作で脳みそを肥大化され、さらにそれを抜き取られるという非鮫道的な実験材料にされたアオザメが研究員共を出し抜き、まずはステラン・スカルスガルドの右腕に噛みつく。
当時から思ってましたがサメ映画において主役のサメにあえて「アオザメ」という地味目な種類をセレクトするというセンスが実にレニー・ハーリン的です。大して大きくも無いしホホジロザメに比べたらシャープではあるが迫力では劣るし殺人マシーン感も希薄。3匹が連係プレイで襲ってくるというのもアクション映画寄り。
そもそも海水に侵されつつある閉鎖空間からの脱出という時点でサメがいなくても充分海洋アクション映画としては成り立つ設定であり、そこにサメを付け足すことで娯楽映画としては「一粒で二度おいしい」を見事実現したがゆえの傑作なのですが、「サメの恐怖」というサメ映画マニアが一番に求める要素が災害パニック要素に押されている感も否めない。そこが良くも悪くもあり、純粋にサメの恐怖を追求した「ジョーズ」「ロストバケーション」「海底47m」と本作との最大の違いでもあります。
↑インコを肩にのせて行動するコック。
コックの方は本作を観た誰もが忘れられないインパクトを残した名キャラクターですが、インコの方はどうなってしまったのか。残念ながら、中盤でサメに喰われてしまいます。私は人間がモンスターに喰われる場面を観るのが何よりの楽しみなのですが、その反面、鳥が喰われるシーンは非常に心が痛みます。人間はともかく鳥は大事にしてほしい。その点カモメが最後まで生き延びてくれた「ロストバケーション」は大変良い後味を残してくれたのですが。
↑業務用オーブンに逃げ込んだコックをおいしく頂くべくスイッチオンするサメ。
いくら知能が上がったとはいえ、人間をオーブンで調理してから食べようというのか! という驚きと笑いに満ちた本作を象徴する名場面。後にも先にもこんな捕食(未遂)シーンはどんなサメ映画にも存在しません。焼き上がるのを楽しみにオーブンをのぞき込んでいるようでサメが可愛らしく見えてきました。
まあ、こんなブログに来るような人であれば本作を観ていないはずもないでしょうし、後半部については詳しく触れません。
しかし改めて鑑賞してみると、各登場人物の死に様のインパクトが実に大きいことに気づかされます。有名になり過ぎたサミュエル・L・ジャクソンの例のシーンにばかり気を取られがちですが、映像的には右腕を喰いちぎられたうえにタンカごとサメに投げ飛ばされて海中ガラスをブチ割る道具にされたステラン・スカルスガルドの死に様が猛烈に悲惨だし、エレベーターシャフト内で徐々に上がる水位と共に追いつめられてやられる海洋生物学者の喰われ方も妙に心に残ります。
考えてみればそこら辺のサメ映画は大体捕食シーンをサメのドアップと悲鳴と赤い水だけでごまかすのが当たり前になっているので、様々なシチュエーションでの捕食シーンを正面からバッチリ見せてくれるというだけでも本作には非常に価値があります。サメ映画というもののハードルの低さを再認識せざるを得ませんが、2作目でその辺をどう処理しているかが気になるところです。
とりとめのない感想記事になってしまいましたが、それも本作は私などが語るまでもなく殿堂入りの名作としての地位を確立しているがゆえのこと。万一観ていないサメ映画ビギナーがいるのであれば、人生の3%ぐらいは損していると言えるので即刻鑑賞すべきであるとだけ言っておきます。とはいえ、特にサメに興味が無い人にとっては「ダイ・ハード2」と同程度の佳作に映ってしまうかもしれません。