製作:2019年アメリカ
配給:東宝
全人類の内臓を溶かす威力を持つ殺人ウイルスがMI6のエージェント、ハッティによって盗まれた。ハッティの兄ショウとホブスは彼女を捕らえるが、それは陰謀だった。殺人ウイルスを狙い、世界征服を企む秘密組織エティオンが強力な戦闘サイボーグ兵団を差し向けてくる。
この映画を一言でいうと「ハゲと筋肉の狂宴」、これに尽きます。136分もの長丁場をひたすらハゲと筋肉とドンパチだけで無限ループ。いくらなんでもここまで濃厚にハゲと筋肉が支配する世界を観せられたのは初めてかもしれません。これを簡潔に表すサブタイトルとして「スーパーコンボ」という語感のシンプルな力強さと知能指数の低さは笑ってしまうほど的確なのではないでしょうか。
しかし、私もこのシリーズは4作目の「MAX」から毎回必ず劇場で鑑賞してBDを揃えている程度には好きなんですが、最近はインフレが激しすぎると感じています。潜入捜査の一環でカーレースしていたころの雰囲気はどこへやら、いつの間にか人類を滅ぼすようなスケールのでかい組織を相手に世界規模でドンパチを繰り広げるようにまでなってきました。
そして本作はいよいよこのシリーズならではの要素が全てどこかへ消し飛んでしまっています。ドムやブライアンの姿は影も形もない…のはしょうがないとしても、走り屋的な奴もいないしカーレースも潜入捜査要素もありません。
私は日本車、特にスバル車びいきなので、デカくて派手な外車に混じってWRXやBRZが走ってるのを観るのも楽しみの一つだったのですが、本作は日本車どころかアメ車すら出てきません。かろうじてマクラーレンのスーパーカーでの市街地チェイスが一か所あったぐらいで、あとは大型トレーラーとかバギーによるマッチョなアクションシーンだけです。
これまでのシリーズを観た後の帰路は、ついアクセルをベタ踏みにしたくなる気分で運転していたものですが、本作の場合はスキンヘッドにして筋トレに励まなければならない気持ちにさせられます。これはもはや洗脳に近いと言ってもいいレベルで、ジェイソン・ステイサムとドゥエイン・ジョンソンの超マッチョで死ぬほどド派手なアクションを繰り返し刷り込まれます。全編に渡って勢いがあり過ぎて、普通の映画ならクライマックスに配置するような重量級のアクションシーンが惜しげも無く序盤から浪費されていきます。こんなハゲと筋肉しかない映画に一体どれだけ膨大なカネをかけたのかと思うと、アメリカ人の信仰心が実は神ではなく上腕二頭筋に向けられているのではないかと恐ろしくなってきます。
この圧倒的なハゲと筋肉の前にはストーリーなど完全にどうでもよく、いやよく考えるとショウとホブスの関係性がかつてのドムとブライアンに似ている点にわずかながらワイスピらしさのようなものを感じ取れなくもないのですが、やっぱりどうでもよくなってきます。
ただのアクション映画として観れば、超筋肉で力押しのホブスとスピードと技で魅せるショウとの対比が気持ちよく爽快で素晴らしい、とは言えます。
しかし高層ビルから落下しながら敵サイボーグと戦闘を繰り広げ、そのまま車に激突しても当然のように無傷のハゲ共を見る限り、少なくとも戦闘力1000ぐらいはあるとしか思えません。リアリティに欠けるっていう次元ではなく、もう完全にマンガ。敵サイボーグの目にはスカウターみたいなのが内蔵されてるし。ここまでやってしまったのであればもう、次回作からは宇宙規模の戦いにインフレが進むんじゃないかと心配になってきます。そしたらスピンオフとして「ワイルドスピード vs プレデター」が観てみたいですね。
ということで、ワイルドスピードの新作として観るのではなく、ただの脳筋アクション映画として観ればかなり良い出来です。何だかんだ言いつつも頭カラッポにして楽しめました。
レーティングの問題なのか、血が全く出ないのは不満ですがね。