2017年スウェーデン・デンマーク・フィンランド合作映画。
2095年、世界は海面の上昇で陸地がほとんど水没し、塩病という病に人類は蝕まれ、真水が貴重品となってしまっていた。
80年前に海水を真水に変える研究をしていたらしいが、それを世に発表することなく事故死した科学者を調査するため、ファン・ルン大尉(の分身)が2017年へとタイムスリップする。
という話のSFです。
海面上昇で世界が水没したからには
地球はサメが支配する世界になっていたとか
そういうエキサイティングな内容を期待したいところでしたが、
本作は北欧産だけあって死ぬほどくそまじめな映画でした。
公式HPの紹介文では、
「ディザスター&タイムトラベルのキャッチーな要素と圧倒的高評価がユーザーへ強く訴求!」…とか業者向けのセールス的文言が踊っているんですが、
少なくともディザスター要素は皆無だし、キャッチーとはとても言えないような気が…
というか、明らかにエンタメ系ではなくアート系寄りの映画です。
本作のストーリーの芯となるのは、
「海水を真水に変える研究結果を持ち帰るために過去へ送り込まれたルン大尉の分身」がなぜか帰って来なくなり、連絡も出来なくなる。それはなぜなのか?
という部分ではあるのですが、
一見サスペンス的なスリルを味わわせてくれそうな設定ではあります。
過去改変は厳禁ですからね。
しかしそれ以前に、ただ単純に過去へ行くのではなく、
分裂した自分自身を過去へ送り込むというのが斬新でした。
分身と本体とは感覚で繋がっているため、
過去世界で勝手なことをしないように現代(2095年)から管理できるという設定なわけですが、
なぜかそれが切れてしまった。
というのが事件の発端となるわけです。
舞台がコペンハーゲンなせいか、SF要素に量子力学チックなものを絡めてきます。
まあ、「量子網が擦り切れたのかもしれん」
とか言われても何が何だか全く分かりませんが。
勝手に過去を改変されたら今ある世界がどうにかなってしまう…
俺の分身は一体何をしているんだ…
と苦悩しまくるルン大尉。
ちなみに人類を救う「海水の真水化研究結果」は至極あっさりと入手できてしまいます。
主題はそんなところには無いんですね。
本作のストーリーの大半はルン大尉のやたら詩的なモノローグで語られます。
たとえば分身との感覚が切れるシーンなどこんな感じです。
「
最後に受け取った感覚は――雨とオレンジの香り。そしてあの時、何かを失った」
過去に戻ったルン大尉は2017年のコペンハーゲンで出会った
自然の豊かさにいたく感激していました。
単なるハトへのエサやりですら、未来人にとっては大昔に絶滅した動物とあればそれも無理は無く。
ハトですらそれなのに動物園にまで行ってしまったのならそりゃもう過去改変の罪にも目をつぶって帰りたくもなくなるのも当然でしょう。
…と理解を示してはみたものの、
とんでもなく地味な話だなあ…という印象は拭えません。
地味というより渋いと言った方が良いですかね。
環境保護がテーマでもあることだし、学生に授業で見せてもよさそうなくらいです。
映画の出来自体は良いので退屈でも時間が長く感じるわけでもありませんが、
あまりにも抑揚も刺激も無いので、大変眠たい映画ではあります。
分身が帰って来ないので本体も2017年へ。
分身を2095年へ帰るように説得できるのか…
それとも本体も2017年のすばらしさに染まって帰りたくなくなるのか…
結末は当然の帰結とはいえ悲哀に満ちており、
同じ顔のオッサン2人が映っているだけなのに、はかなく美しい余韻をもたらします。
結論を言えば映画自体は全然楽しくもないし面白くもありませんでしたが、
たまにはこういう映画で、普段触っていない部分の感性を刺激してみるのも一興かなと思いました。
過去の美しさに触れてしまった未来人の
繊細な心理描写に重きを置いたアート系寄りの激シブ映画
であることを分かったうえで観たいと思えるのなら、そこそこおすすめできます。
アクションやサスペンスをちょっとでも期待していると、おそらく深い眠りに落ちることになるのでご注意ください。