あなたは、死の瞬間を観たいですか?
視聴率低迷に苦しむ放送局が仕掛けた新番組。
それは、人間の自殺を生放送するリアリティショー。
借金を抱えた者、愛に飢えた者、死を選ぶ理由は様々。
未だかつてない衝撃映像に視聴者は大熱狂。
だが、それは絶対に侵してはならない領域だった―。
(ニューセレクトHPより)
リアリティにかなり難を感じるものの、なかなか重たい社会批判を込めた風刺映画でした。
「スーサイド・ライブ」は「自殺中継」という意味ですから的確な邦題ではあるんですが、せっかくだからもっとストレートに番組名そのままで「あなたの死に様」という邦題にしてほしかったところですね。
大富豪の花嫁をオーディションで選ぶ、というそれはそれで実際にやったら大問題になりそうなリアリティショーで選ばれなかった花嫁候補が拳銃自殺。そのシーンで視聴率が爆発したため、いっそ自殺をライブ中継したらもっと視聴率が稼げるのではないか?
という導入で始まります。
司会者のアダムは初めは反対するものの、「リアル」を放送しなくなったTV業界に一石を投じるため、「自殺」を通して人間の真実を伝えることが出来るのではないか?
と考え、番組は「あなたの死に様」(This is your death)というタイトルでスタート。
第1回目はDV夫から娘を救いたいと訴える妻。番組に出る前に夫を殺してきたと自白し、浴槽で感電死するという死に様を見せました。
「死の瞬間」を生中継するということは、建前がどうであろうと、自殺のエンターテインメント化に他ならないわけです。仮に法律の抜け穴を通ったとしても実際にやったら大炎上ってレベルじゃないしそんなもんにGOサイン出す経営陣もスポンサーもいるわけがありません。
が、そこら辺は全てスルーして、本作を一種の寓話またはSFと捉えるのが正解ではないでしょうか。
番組作りにあれこれ画策するアダムやプロデューサーたちと並行して、いくつもの仕事を掛け持ちし、障害を持った子供を抱えて生活苦に悩むメイソンという中年男性が描かれます。本作の実質的な主人公はアダムとメイソンの2人ですが、感情移入しやすいのはメイソンの方。
もともとは哀れな自殺者に寄付金を、という体で始まった番組ですが、地味な死に方では飽きられると考え、自殺の背景や方法で優劣をつけ、賞金が出ることになる等番組はどんどん悪趣味な方向へエスカレート。当初は金目当てじゃないと言っていたアダムも視聴率優先でいきなり俗物化してきます。
彼の「金も夢もない人生を大衆に知らしめた。世の中ハッピーエンドばかりじゃない」という主張など、序盤は共感も出来る人間だったのですが。
このアダムの急激な変化にはついていけない人が多いと思われ、本作の大きな欠点と言えますね。
一方メイソンは理不尽な理由で仕事を次々とクビになっていき、光熱費の支払いにも難儀するほどに追い詰められていく様がじっくり描かれていきます。再就職どころか借金すらも出来ないという有様。このパートは大抵の人にとっていつ陥ってもおかしくない、直視したくない現実であり、かなり気が滅入るところです。
そしてメタ的に見れば、クライマックスでメイソンが「あなたの死に様」に出演する構成なのは明らか。本来は死にたくない人間が、金のために自分の死を見世物にせざるを得ない悲劇をどう描いて来るのか?
本作は破滅へと疾走するアダムとメイソンを交互に見せられるようなもので、楽しさもスリルもないのですが、そこら辺が気になり引き付けられます。
フィクションとはいえ人が死ぬ映画ばかり好んで観ている自分もちょっと申し訳ないような気分になるような…。でも本物の死は観たくないですけどね。
ところが、そんなクライマックスが近づいてきたところで唐突に変なギャグシーンがねじ込まれます。
おい!? なんだこれは…
完全シリアスな映画だっただろうが!?
いきなりどうした?
…落武者みたいなアタマの「イチロー」さんによるエセハラキリでした。
なぜアメリカ人がハラキリを描く時はいつも介錯が省略されるのか?
省略したら一番マズイ部分だというのに。
このあと二段構えの感動的クライマックスシーンがひかえているにも関わらず、
突然のこの暴挙。
いや…まあ…もしかするとギャグのつもりではなかったのかも?
所詮B級バカ映画だったかな…と多少がっかりはしますが、
まあそれでも総合的に見れば本作はなかなか出来の良い社会風刺映画だったと思います。
現代社会で最も邪悪なものは大衆の好奇心であり、それと相互に影響する形でテレビ業界も腐敗している!というテーマに貧困問題を絡めた感じでしょうか。
わりと万人受けする方だと思うので結構オススメです。