かなり珍しい、ブラジル産のスラッシャーホラー映画です。
タイトルやジャケでも分かるようにバイクでの追走劇をメインとしているところもスラッシャーものとしては珍しい。
内容としては、若い男女のグループが保護区の壁を壊して侵入しツーリングを楽しんでいたら、
黒ずくめの謎の殺人バイカー4人組に追われることになる。
…というだけ。
意図してのことでしょうが本作はセリフが非常に少なく、人間ドラマなどあって無きが如し。
主人公側のメンバーも殺人バイカーたちも何者なのか最後まで全く分かりません。
なので、観客としては単にクモの巣にかかってしまったバッタを眺めている時のような気分になるだけです。
(弟想いの兄貴だけはちょっと応援したくなるキャラクターでしたが)
手の平の火傷の模様など、謎めいた思わせぶりな描写も結構あるものの、
おそらく考えるだけ無駄だしバイク映画でもあるわりにスピード感に欠ける
マッタリ進行など、あまり楽しい映画ではないように思えます。
演出的には芸術映画寄りな雰囲気を感じるけどいきなりババーンと死体を映したりとしょうもないホラー演出も気に障る。
しかし本作にはそんな欠点を補って余りある…
というほどでもないけど、美点もありました。
それがこのブラジルの素晴らしく雄大な景色。
具体的にどこなのかはよく分からんのですが、どうやらミナスジェライス州という地域のどこからしいです。
前半タップリ30分以上かけてダラダラとツーリングしている様子を
見せられても、普通はダルくてたまらんし眠くて仕方ないんですが
本作においてはこの景観のおかげで、ブラジル観光映画としてそれなりに楽しめるようになっていると思われます。
ただ映画的には本当にびっくりするほど中身はなく、空虚です。
小汚いヒゲ面のオッサンが立ち小便しているシーンですら、
背景の美しさに感動せずにはおれません。
矮小で汚いものと雄大で美しいものの対比が見事に決まった
芸術的なワンカットと言えるのではないでしょうか。
しかしここの湖の水は飲んではいけないようです。
何の説明もないので理由は全く分かりませんが、
実は何かに汚染されている地域なのでしょうか?
それもまた対比表現なのかもしれませんが、言葉少なすぎて何とも言えません。
そんな素晴らしい立ち小便シーンの直後、
何の理由も前触れもなくスタイリッシュなブラックレザースーツ&プロテクターで
身を固めた4人組が現れます。
立ち小便は斬首刑!
一言も発することなくマチェーテや鎖を武器にゆっくり迫って来る殺人ライダーたちはマイケル・マイヤーズ的な不気味さを醸し出してはいますが、特に目新しさも無く。
ここから後は、バイクという小道具はあるものの
クライモリとかと同じような類型的なスラッシャーホラーになってしまい、
夜のシーンが多くを占めるために景色を楽しむこともなかなかできず
ただの眠たい映画と化してしまいます。
とはいえそういう目で見ると、スパッと切れ味の良い首チョンパシーンが2回あることが
一応の見どころとなっております。
しかし「殺人鬼が迫っているのに、バイクのエンジンがなかなかかからない!」
というありがちすぎてイライラする場面が4回ぐらいあったのは
非常にゲンナリしました。スリルの煽り方としてはド3流と言わざるを得ない。
あとオチは完全に意味不明でしたね。
良いオチが思いつかなければ素直にハッピーエンドにしておけば良いものを…。
ということで本質的には結局何てことのないB級スラッシャーホラーに過ぎない映画ですが、
ブラジルの大自然に浸りたいという気分の時にはうってつけの内容と言えるでしょう。
バイク好きの心に刺さるかどうかは、私が特にバイクに興味がないので分かりません。