製作:2018年イギリス
発売:ソニー・ピクチャーズエンターテインメント
新型狂犬病が蔓延し、凶暴な感染者によって人類が地下へ追いやられた世界。感染したのに発症しなかった男モーガンは、感染者と意思疎通が図れる能力を身に付けていた。ワクチンを作るため、モーガンたち研究チームは捕らえた感染者を尋問し、感染者第一号の行方を追う。
邦題に「Z」とか付いてるとどうも安っぽくなるうえにゾンビ映画らしいのでどうしても「ワールド・ウォーZ」に便乗したいように見えてしまい、ジャケットがハゲのオッサンだけという地味さも相まって全く面白そうには見えない一品。
しかし、本作は「
コールド・キラー」の監督ステファン・ルツォヴィッキーの新作ということで密かに期待していました。
が、その結果は…
まあまあ悪くはないものの、「コールド・キラー」には全く及ばずかな…といったところ。
低予算で超地味なのは仕方ないとして、ゾンビ映画というのが個人的にやはり微妙でした。
いや、正確にはゾンビではなく新型狂犬病の感染者なんですが。パッと見の印象は「28週後…」の感染者に近いですかね。
これが単に理性を失い凶暴化したというだけではなく、主人公モーガンとは普通に会話が出来ることや、音楽を聞くと苦しむ弱点などの独自性はあるんです。人間と同じく、感染者にも個体差がかなりあり十把一絡げには扱えないというのも特徴かな。
世界が壊滅しているとは言いながらほぼ地下研究所の中だけで進行する安っぽさは気になるものの、感染者を尋問しながら解決の糸口を探ろうとする導入には興味を惹かれます。
ただ、個人的に理解出来ないのは、モーガンはいつか治療できると信じて、感染した妻を檻に閉じ込めている…という部分です。いや、それだけなら別におかしくないけど、感染したとはいえ妻をキープしつつ同僚の女性科学者と良い仲になって子作りしちゃっているのがどうにも理解できない。もし治療が成功しちゃったらどうすんの?っていう。
「奥さんのことはもう諦めるべきよ」と諭されてキレるのは控えめに言っても最低ではないか。そりゃ女性科学者側としては治ってほしくないですよね。最終的には都合よく片方死んでくれたからいいけど、そうでなかったら一体どうするつもりだったのか。モーガンにとって女性科学者の方はどうも子供さえ産んでくれればいいだけの存在に思えてならない。
最後に流した涙の意味について色々考えてしまいます。
女性問題は置いといて…本作で影の主役とも言える感染者のボス的存在がジャケットのオジサンです。スタンリー・トゥッチと言う人で結構メジャーな役者さんらしくなかなかボスらしい存在感。拘束・尋問されても余裕でタバコをふかしながら
「時間は贅沢なものだ 君の手には入らない」
などとインテリジェントな空気漂う禅問答を始めてくれます。
ここら辺はこの作品のメインテーマらしきものを迂遠に語っているような雰囲気があったので私もかなり集中して鑑賞していたのですが、どうも最後まで観ると結局大したことは言ってなかったのでは? と感じてしまいましたね。私の理解力不足かもしれませんが、あのラストはどうしても「それだけ?」と聞き返したくなる底の浅さが見えてしまう。
「なぜ暴力をふるうのか?」「進化しているのは我々の方ではないか?」にしても観念的な問答でしかないし、なぜモーガンだけが特別な存在だったのかも分からなかった…。妻が子供を持ちたがらなかったから?というだけでは弱いしなあ。
「子供が大事」というメッセージくらいしか伝わらずどうにも微妙な印象の拭えないゾンビ映画ですが、風呂敷の広げ方は悪くなかったし、クライマックスの攻防戦はそれなりにスリルもあるのでゾンビ映画好きならボチボチ楽しめるのではないかと思います。
ただそのクライマックスものんきに銃撃戦なんかしてないで音楽を大音量で流せよ、と突っ込みたくはなりましたが。せっかくの弱点を尋問にしか使わなかったってのは解せなかったですね。