製作:2014年デンマーク
発売:トランスフォーマー
剛田武的な同級生には宿題を押し付けられ、弟をイジめられても見て見ぬふりしかできない超チキン高校生のダニー。そんな彼の冴えない日常が、突如乱入してきた謎の魚介系モンスターによって一変する。一瞬で父を殺され、地下室に籠城する羽目になった兄弟に生き残る術はあるのか。
「モンスター・何とか」という実に汎用性あふれる邦題、そしてトランスフォーマー社の誇大広告からは、どうせしょうもないC級映画なんだろうな…という残念な匂いしか感じられません。が、これが意外と良い感じ。地味ながら滋味掬すべき作品と言えます。
始まって最初に映るロゴが「MISO FILM」。
みそフィルムってどういう意味なんでしょうかね。本作はデンマーク映画ですが、あちらではMISOとはどういう意味なのか、それともそういう姓名でもあるのか。何か無性に気になるのでもし知ってる人がいたら教えてください。
本作は原題が「ダニーの審判の日」となっており、モンスターがどうのこうのというよりは一人のヘタレ少年の精神的成長に焦点を当てて丁寧に描いた感じの映画になっていました。
冒頭の日常シーンにおいて実に分かりやすいイジメっ子がノリノリでクズっぷりを主張しまくるため、
「おっこいつがあとでバリバリ喰われることになるんだな?」などとよこしまな期待感を抱いてしまった私は猛烈な肩透かし感を味わうことになってしまいました。あんなクソガキが喰われないなんてアメリカ映画だったらあり得ませんからね。そこはモンパニ映画の長い歴史の上に形作られた暗黙の了解であるとさえ言えます。
冷静に考えると殺されるほどの悪人ではないかもしれませんが、あの前フリで喰われないのはやはりおかしい。ああいう奴の苦痛に満ちた断末魔の叫びこそが、この手の映画ではショートケーキのイチゴ的役割を果たすべきなのです。ここは本当にクレームものと言わざるを得ない。
しかもそれだけではなく、いざモンスターが襲撃してくる段階になっても、その肝心のモンスターの姿がほとんど画面には映りません。サイズは小さめですが、少なくとも被害はダニーの住む町全体が壊滅状態に陥る程度には危険なクリーチャー(の群れ)らしい。
↑観客に姿を見せる前に、目撃者による似顔絵でこちらの期待感を煽って来る手法。…かと思いきや、想像以上にコイツが画面に映らない。海からやって来たらしく背ビレがチラリ、鋭いツメがチラリと見えそうで見えないもどかしさを追求。そして兄弟が地下室に籠城している時間がやけに長い。いや閉塞感の演出的にも出来が良いので退屈はしませんしスリルの煽り方も上手いとは思いますが、まだ怪物出ないの?感は強い。
一応最後の最後で30秒ぐらい全身像は見れますが、これはもういっそのこと最後まで映さない方が良かったんじゃないかなという造形の魚モンスターでした。海から来たとかエラ呼吸とか、何のための設定だったのかよく分からん。危機を乗り越えることで何度も見捨ててきた弟との絆と信頼を回復する、という話だしそれなら別にモンスター物じゃなくても地震とか噴火とかの災害でも成立しそうなテーマじゃないでしょうか。
さらに、街の住人の大半を喰いつくしたはずなのに、本作は血の一滴も出ません。もっと血をよこせと吸血鬼的な気分になること必至。街のいたるところに死体の喰い残しやら流血の跡が無ければ絶対におかしいはずなのに、全く何もない。さすがに相当不自然です。
製作者はよほど本作を子供に見せたい、もしくは家族で楽しく見てほしいのでしょう。モンスターパニックの皮を被っておきながら、恐ろしいほどにド健全でベタな青春ヒューマンドラマとも言えます。
…ケチばかりつけてるうちに何がそんなによかったのか分からなくなってきましたが、主人公ダニーの精神的成長は実によく描けていると思うのです。別にそんなものに期待していなかったので不意打ちというか何と言いますか、先ほどのショートケーキの例えで言えばイチゴも無いしクリームもちょっとだけしか塗られてなくて、もはやケーキとも言えない物体だがスポンジ部分だけはすごく美味かったような感じですかね。
あとで考えると上手くいきすぎな気がしますが、あれだけしつこくヘタレぶりを強調されていたダニーが終盤で発揮する根性とその結果報われる感動的なラストには不覚にも目頭が熱くなってしまいました。
ということで、ストレートな感動青春映画が受け入れられる人向けかなと思います。
人が安い怪物に喰われるのを見て喜ぶようなひねくれ者はやめておきましょう。