製作:2017年アメリカ
発売:松竹
元プロホッケー選手のエリック・ルマルクはシエラネバダ山脈にスノーボードをやりに来ていた。しかし覚せい剤に溺れ、自暴自棄だった彼は立ち入り禁止区域へと滑り出してしまう。案の定、遭難してしまったエリックはこれまでの人生を悔いながら生き延びようともがく。
原題は「6 Below: Miracle on the Mountain」なのに邦題はシンプルに「マイナス21℃」だけ。
これは日本人にとっていかにマイナス21℃という気温が恐ろしく低く、インパクトのある数値であるかを如実に示していると思います。
「それほどの極寒地獄から一体どうやって生還したのか」
という方向性一点で興味を惹こうと言うわけですね。実話モノですしね。
ただ、道北の極寒地に生息していたことのあるホモ・サピエンスからすると、マイナス21℃程度の気温は特別珍しいものでもなく、
「そんなの別に大したことないよね」
…などと上から目線で悦に入りがちです。
おそらく関東以南の人が思っているほど、マイナス21℃という気温は厳しくない。むしろ暖かいかなってレベル。鼻毛は凍っちゃいますが、不都合と言ってもそれだけです。マイナス31℃くらいになるとさすがに「今日はちょっと寒いね~」という微笑ましい会話がそこかしこで発生しはじめるくらいかな。
私もそんな寒さに耐えながら、羆や狐がうろつく山道を何時間も歩いて買い物に出かけるっていうマタギのような生活を7年ぐらい送ってましたし、慣れればどうってことはないんです。今はもう都会に染まっちゃったんで無理ですけど。
しかし、本作の主役エリックはなんと8日間もの長期間、極寒のシエラネバダ山脈をさまよってしまったとのこと。さすがにそれは道北人でも真似できそうにない。後に彼は救助隊から「奇跡の男」と呼ばれたそうですが、耐久力に奇跡も偶然もないっていうか単純にしぶといにもほどがある。
で、そんなエリックを演じているのがジョシュ・ハートネット。
「ハロウィンH20」や「パラサイト」でおなじみの…とか言おうと思ったら、それらはもう20年以上前の作品でした。時間経つの早すぎないかな。まあそれだけ間が空いても忘れない程度には印象に残る俳優さんだってことです。しかし、奇跡の男と思えるほどの生命力は感じられない。
なにしろ、彼は作中一度も火を起こせてないんです。
一切暖を取ることなく8日間も生き延びられるか?
かなり疑問ですね。
しかもうっかり湖に落っこちて全身ずぶ濡れになり、やむを得ず全裸になって数時間を過ごさねばならない状況に陥ります。
イケメン俳優の全裸ということで女性には眼福なシーンかもしれません。しかし氷点下で全裸…それはいくらなんでも致命的すぎるのではないか…
プロホッケー選手というのはそこまで強靭な生命力を持っている超人なのか。少なくともジョシュ・ハートネットではすぐ死にそうに見えるのが残念です。まあ、彼も実際に雪山で全裸になって撮影しているわけですが…
↑シエラネバダ山脈が舞台ということで、景観は大変素晴らしいです。大型テレビにブルーレイで観たらそれだけでも結構な満足感を味わえることでしょう。しかし、シエラネバダ山脈といえばまずアレですね、カニバリズムが真っ先に思い浮かびますよね。まあ本作は1人で遭難してるんでセルフ・カニバリズムしかできませんが、そこは乾燥した足の皮1枚で済まされておりちょっと微妙な気分。別に自分の足をモリモリ食うべきとは言いませんが、あまり飢えに苦しんだという描写は無かったですね。
実際雪山でのサバイバル術がどうのっていうシーンはほとんどなく、ただ苦しみながらさまよい歩き、これまでの人生を悔い、改める…という精神的な面を重視した映画と言えます。
エリックはたびたび白い粉を吸引し、みずから立ち入り禁止区域に行ったわけなので同情の余地は欠片も無いはずなんです。が、アイスホッケーのエリートスパルタ教育がトラウマ的に何度もフラッシュバックしているのを見ると「それならグレてもしょうがないな…」という気分にもなってきます。一応。
だからって美談に仕立てるのはどうかなと言う気もしますが、払った代償が決して安いものではなかったことも考慮すると、ラストの生還劇とその後の復活劇もそれなりに感動的には受け入れられました。
実話モノが好きであればそれなりに楽しめるかと思います。