「2011年シッチェス映画祭出品作品。離婚し、環境を変えようとメアリーが引っ越してきたアパートには、すでに回線の繋がった古い黒電話が据え付けてあった。黒電話からの謎の人物の連絡、続発する怪事件…。」(amazon紹介文)
ダサイ邦題で結構な地雷臭もしますが、これはなかなかよく出来たホラー映画です。
ほぼ予備知識なしで見ましたが筋書きが読めず、何が起こるか分からない恐怖感を満喫できました。
これはネタバレを見てしまうと面白さ半減なので、
興味を持った人は余計な情報を入れずにまず見てみてほしいです。
全体的にダウナー系というかずっと暗くてどんよりしていて演出も抑え気味。
雰囲気としてはJホラーに近いものがあります。
そういうのが苦手でなければおすすめできます。
以下ネタバレあり。(後半はそれほど細かく書いてません)
メアリーという女性が離婚してボロアパートに越してきたところから始まるのですが、
元旦那が暴力的なうえ粘着質で、離婚した後もストーカーされて悩んでいました。
お金がないんでしょうが、ドアスコープもドアチェーンも無く、
防犯的にはかなりザル気味なアパートです。
若い女性がこんなとこに住んでていいんでしょうか?
そして備え付けの黒電話を番号ごとそのまま使っている様子。
そういうのってアリなんでしょうかね。
しかし、案の定間違い電話がかかってきます。
ボビーとかいう以前の住人宛ての電話です。
相手はローズという、ちょっと病んだ感じの女性。
メアリーは適当にあしらって切りますが、何度もかかってきて会話を繰り返すうちに
これが過去からの電話であることに気が付きます。
私はこれがてっきり心霊系のホラー映画だと思って観てたんですが、
違うんですね…雰囲気や演出は完全に心霊系のそれなんですが、
脚本はSFホラーの類でした。
この映画における「超常現象」は過去の人間と会話が出来る黒電話、というのが起点なのです。
霊魂とか怨念で呪い殺す、みたいなのは出てきません。これはかなり意外でした。
元旦那の影を振り切ろうと新しい恋人を作って楽しもうとするメアリーでしたが、
過去からの電話には悩まされます。
ローズが恋人の不満をグダグダと愚痴るのがウザくなり、
つい「そんなクズ野郎始末してしまいなさいよ」などと言ってしまったところが
本当の恐怖の始まりでした。
本来の歴史では浮気性の恋人ボビーに悩んで首吊り自殺していたはずのローズが、
メアリーの助言に従ってボビーを殺してしまったため
自殺せず生き延びたばかりか、異常な殺人者として目覚めてしまったのです。
ローズは病んでいるというか完全なるストーカー気質の女性でした。
そんな変な電話なんて黙って切ればいいのに、何グダグダやってんだ…
という気もしますね。まあ、メアリー自身もストーカーまがいの元旦那に
悩まされているのでつい共感してしまったというところですかね。
このストーカー旦那がちょくちょく脅かしてくるので
ホラー映画としては恐怖の軸がブレているようにも感じられるのですが、
このあたりの展開やラストのことを考えると必要な舞台装置ではあります。
ローズが殺人者として目覚めてからは
非常にエキサイティングな頭脳戦が繰り広げられます。
ローズはメアリーとの友人関係を維持したいために
メアリーの周辺人物を「過去で」殺していきます。
これは恐ろしいですよ。
なんせ過去での犯行になってしまうのですから、現在のメアリーには
防ぐ術がありません。
現代ではいい年の屈強な大人でも、数十年前の幼少時に狙われてはひとたまりもありません。
そして過去で恋人や知り合いが殺されると、現代からは突然いなくなるわけですが
それが認知できるのはきっかけとなったメアリーだけで、他の人は皆
「彼は数十年前に死んだ」という認識に歴史改変されています。
まあ正直、大人として存在していた人間が子供の頃に殺された
という歴史改変があったらもっとずっと大きな変化が
現代の方で起こるはずだと思いますが、その辺は何もないようです。
SF脳の人はここが気になってしょうがないと思いますが、
これはあくまでホラーなのでその辺はスルーした方が良さそうです。
さらにローズは過去のメアリーにもつきまといはじめ、
メアリーがアルバムを見ると子供の頃の写真の多くに
ボヤけた中年女性の姿が映りこんでいました。
過去の写真に死ぬはずの人間が映りこんでいる…
映画としてはここが一番怖いシーンでした。
限りなく心霊写真っぽいけど、心霊ではなく悪意を持った人間である
というところにハイブリッド的な恐怖が効いています。
過去の自分は何も知らないし、こちらから知らせようもない。
こんなのどうやって逃げたらいいのか?
まあでも大抵の心霊系ホラーでも怨霊から逃げたり抵抗したりする術は無いし
結局そういうノリで見ればいいのかな…などと思っていたら、
メアリーの逆襲が始まります。
なんと過去で火災があり死傷者が多数出た施設に時間を指定してローズを呼び出したのです。
これは素晴らしい。過去の人間を殺す方法など考えたことがありませんが
これならいけそうです。
と言っても、かなり不確実な方法でもありますね…
火災が発生したからと言って逃げられないとは限らないし。
SF的に考えれば、ローズの本来の行動を変えることで
火災そのものの発生も危うくなります。
しかも失敗した時は殺意があったとバレる可能性大なわけで、実にリスキーです。
そして案の定失敗…
怒り狂ったローズは子供時代のメアリーを呼び出し危害を加えます。
幼少時にけがをしたという改変で、現代のメアリーの体にも傷跡が発生する…
絵的には心霊現象なのに、因果関係はSF的です。
この辺は実に感心しました。
そして最終的にはいよいよ年を重ねてその日を待っていた
ローズが直接襲ってくるのですが、
見た目普通のおばさんでしかないのにメチャクチャ怖いです。
戦えば勝てそうだなあとは思いますが
そういう問題じゃないんですよね…
オチは綺麗に決まってはいますが、
やっぱり後味の良いエンディングではありませんでしたね。
大体この手の映画はそういうものだからいいんですが、
たまには生き延びて余生を幸せに送るようなホラー映画を見たい気がします。