一応、ホラー・スリラーに分類される映画ですが、これは全然怖くありません。
なぜかというと、全面的に悪いのが主人公側だからです。
とはいえ、つまらないかというとそんなことはなく充分面白い映画でした。
観客側の感情を色々コントロールしようと苦心しているような、
計算高い脚本がちょいと気になる作品です。
ロッキー、マネー、アレックスというおそらく17歳前後のコソ泥3人組が主役です。
プロローグで空き巣を働いているシーンから始まるのですが、
見た目は普通のロッキーとアレックスと違いマネーという少年は明らかにチンピラで
無駄に花瓶を割ったり、小便を撒き散らしたりして分かり易いクズ野郎です。
よっぽど奇をてらった展開でもないかぎり間違いなく一番先に死ぬ役ですね。
普通のホラー映画ではこういうパーティだと、男2人が死に、女1人がなんとか
生き残るというのが定番のパターンですがこの映画ではどうなるかが楽しみなところです。
舞台はデトロイトですが、彼らは金を稼いでさっさとこんな街から離れて
カリフォルニアに行きたいようです。
自動車産業が傾いてからは廃墟が増えて治安も悪いという話は
聞いたことがありますが、ストリートビューやこの映画の描写を見るとデトロイトは
想像以上に荒んでいるようですね。
この3人がレストランのようなところで次のターゲットの打ち合わせを大声で
してても何も問題が無いくらい人がいません。
こんな犯罪者にどうやって感情移入して鑑賞すればいいの?と思っていると、
ロッキーのかわいそうな事情が出てきます。
荒んだ母親と、連れ込んだゲス男によって最悪の家庭環境になっているのです。
そしてまだ幼い妹を虐待から守らなくてはいけない様子。
そりゃあカリフォルニアに逃げたくもなる。実に同情を誘う境遇ですね。
しかも親に稼ぎは無く、ロッキーが売春で稼いでいると思っています。
これなら空き巣稼業をしてもしょうがない。
そう思わせたいんだろうなーというのは分かるんですが…。
一方でアレックスの方は見るからに賢い善人面をしており、
なんで空き巣なんぞしているのかと思いますが、ロッキーに好意を持っているから
ってことでしょうね。
で、娘を交通事故で失くしたがその示談金をたんまり持っているであろう
「盲目の退役軍人」の家に侵入するところからがこの映画の本番です。
どうでもいいんですが、こういう個人の家での攻防をメインに置くホラー映画は
わりとありますが別に金持ちでも豪邸でもなく大家族でもないのにやたら広いんですよね。
まあそうでないとこういう映画が成立しないんですが、
アメリカでは一人でもこんな大きい家に住むのが一般的なんでしょうか。
この盲目軍人は独り暮らしですが、強力な番犬を1頭飼っています。
ロッキーたちは侵入する前にこの番犬に毒餌を食わせるんですが、
殺すのかと思いきや眠らせただけでした。
しかもチンピラのマネーが「いい夢見ろよ」とかぬるいこと言ってます。
ここは「彼らはそんなに悪い奴じゃないんだな」と観客に思わせる
かなり大きなポイントです。どう考えても殺した方が楽に事を運べるのに
あえてそうしないわけですからね。
犬を殺すと動物好きな観客の心証を大きく損ねます。
…この犬には後々煮え湯を飲まされるわけですが。
侵入して家探しした結果、ごつい鍵のかかった部屋が一番怪しいとなります。
その錠を破壊するためにマネーが銃を持ち出しますが、これにはアレックスドン引き。
銃を持って侵入したら家主に殺されても文句は言えないんだぞ!とか言って逃げ出します。
正直ここは彼がチキンに見えますが仕方ないといえば仕方ないでしょう。10代ですしね。
で、銃をぶっ放したら案の定盲目軍人に見つかります。
元軍人とはいえ爺さんなのに筋骨隆々としています。メチャクチャ強そうです。
どう見てもこの3人ではかないそうにありません。
あまりにも予想通りというか案の定というか、マネーがぶっ殺されました。
しかし、なぜかこの爺さん、正当防衛なのに警察に通報しません。
それどころか、内側からも出られないように鍵をかけたり
窓に板を打ち付けたりしてます。
頭がおかしいのか、なにか事情があるのか、ここでは予想ができませんが
このせいでロッキーとアレックスは容易に脱出が出来ません。
その代り金庫を開けて100万ドルの現金を入手。
これさえあれば幼い妹を連れてカリフォルニアで暮らせます。
若干彼らに肩入れしたくなるような気がしてきますが、やっぱり普通に考えたら
ここは爺さんの方が可哀相だし被害者です。
普通に爺さんの方を応援したくなるところ。
ホラー映画としてはまずい構図なんじゃないですかねえ…
…などと思っていたら、地下に女性が監禁されていました。
これによって爺さんは「可哀相な被害者」から「被害者だけど異常者」へと
クラスチェンジします。
これは…どうなんでしょうかねえ。
これで「この爺さんは悪人なんだ!よしロッキー!金持って逃げ切ってしまえ!」
ってな気分になるかと言えばなりませんでしたね。
監禁されていた女性も爺さんの娘をひき殺したうえ金で罪を逃れているので
加害者と言えば加害者ですし。
その人格が描写されるまでもなく死んだので同情すべき人物なのかどうかも分かりません。
その後ブレーカーを落とされ、真っ暗闇での攻防になりますがこれが
この映画最大の山場です。
盲目者と健常者との有利不利が完全に入れ替わります。
ロッキーとアレックスは暗闇でやたら目を見開いてますが、
こういう時はしばらく目を瞑って暗闇に目を慣らすという方法を知らなかったようです。
とはいえ、アレックスは主人公補正っぽいものに守護(まも)られており、
銃弾が体を掠めるシーンがやたら多いです。
いよいよ避けられない場面でも弾切れだったりとやけに運がいいです。
しかし後のシーンで何だかんだで爺さんとタイマンでやりあうことになりますが
ここの絶望感はなかなかでした。
鍛え上げた軍人と10代のモヤシではどう頑張っても埋められない差があります。
むしろここは爺さん強い!かっこいい!と思ってしまいますね。
そしていいところで犬が目覚めて邪魔に入ってきます。
ホラー映画の敵としては実に地味な相手ですが、人間では勝てないんでしょうね。
2人は終始お犬様に立ち向かうことは出来ず逃げ回ることしかできません。
どうでもいいけどこの犬、やたらツバを撒き散らして汚いです。
狂犬病にでもかかってるんでしょうか?
通風孔からもう少しで逃げられるというところでロッキーがつかまり、
拘束されてしまいます。
何と、この爺さんの目的は失った娘の代わりに、別の娘を監禁すること
…ではなく、自分の子供を産んでもらうことでした。
うーむ…ここはかなりおぞましいシーンとして演出されています。
気持ち悪いです。ロッキーも観客もドン引きです。
ここで爺さんが「可哀相な被害者だけど異常者」から「異常なクソ野郎」へと
2度目のクラスチェンジをしてしまいます。
ロッキーも爺さんに対して罵詈雑言言いたい放題です。
しかし、ここはどうしても爺さんを悪者にしなければならない作劇上の都合を
強く感じてしまいますね。
確かにこれであれば、警察に通報しないことも、内側からでも容易に脱出できないように
鍵をかけまくるのも当然、ということになるので上手いといえば上手い脚本なのですが…
終盤にきてようやく主人公補正の切れたアレックスが銃弾を食らい、
ロッキー一人が何とか生き延びます。
この辺は冒頭で匂わせていたのもありますが、やっぱ予想通りでしたね。
とはいえホラー映画のモンスターはやたらしぶといのがお約束なので
この爺さんもちょっとやそっとでは死なず、熾烈な攻防が繰り広げられます。
結局ロッキーは目的を無事達成しますが、爺さんは軽傷で済みました。
珍しくハッピーエンドなホラー映画でしたが、どうも明るい雰囲気は無く、
あの後ロッキーと妹は幸せになれたという感じがしません。
爺さんも軽傷だし、続編でも作る気なんですかね…
もう少し気持ちよく終わった欲しかったところですね。
突っ込みどころをなくすべく緻密に計算して練り上げた脚本、という感じでしたが
計算しすぎて逆にそれが鼻につく、そういうところが散見される映画でしたね。
何も考えずにバカやってるホラー映画よりはずっと志が高くて良いですが
怖さという点では今一歩というのが残念なところです。