製作:2018年イギリス
発売:ギャガ
ロシア近海で一隻の米海軍原子力潜水艦が姿を消した。ジョー・グラス艦長率いる攻撃型原潜“ハンターキラー”は捜索に向かった先で、無残に沈んだロシア原潜を発見、生存者の艦長を捕虜とする。同じ頃、地上ではネイビーシールズ精鋭部隊の極秘偵察により、ロシア国内で世界を揺るがす壮大な陰謀が企てられていることが判明する。未曾有の緊急事態を回避するため、ハンターキラーには限りなく0に近い成功率の任務が下る。それは、絶対不可侵の水中兵器ひしめくロシア海域への潜航命令でもあった。グラスは任務遂行のため、シールズとタッグを組み、禁断の作戦実行を決断するが……。世界の運命は、一隻の潜水艦に託された――。
(↑ギャガ公式サイトより)
ロシアで国防大臣主導のクーデターが発生し、戦争の勃発を防ぐためにアメリカがネイビーシールズと原子力潜水艦でロシア大統領を救出に行くというお話。エンターテインメントとしては非常に出来が良くて、2時間近い上映時間中全く退屈せずに楽しませてもらえました。潜水艦映画にハズレ無しの法則がしっかり適用されています。困難な使命を帯びた潜水艦が、機雷とソナー網を張り巡らされた危険なロシア海域を潜り抜けるとかそれだけでも面白いに決まってます。しかも海中だけではなく陸上でも少数精鋭の特殊部隊によるロシア大統領救出ミッションが同時進行し、こちらも潜水艦パートに負けないスリルと緊張感があります。
しかし、確かに観ている間はひたすら面白いだけなんですが、後から考えると色々引っかかる点もあります。アメリカ側が非の打ちどころのない正義の味方なんてのは今にはじまったことではないとして、ロシア側の描き方が結構微妙なんです。というのも、本作で明確に悪とされるのがロシア国防大臣ただ一人だけだからです。それ以外のロシア人は大統領も軍人もアメリカ軍人と同様、尊敬すべき人格者であり対等の存在として描かれます。それはそれで大変素晴らしいことだとは思いますが、これだけ大規模な軍事衝突なのに何もかも国防大臣だけが悪い、とするにはあまりにも大臣の人物描写が不足している気がしてならない。大臣の見た目があまりに小物臭すぎるのもいけない。
つまり本作は単純にアメリカ軍とついでにロシア軍のカッコイイ活躍さえ見せられれば、細けえことはどうでもいいんだよという底の浅さが気になるんです。いや、エンタメと割り切ればそれでいいっちゃいいんですけども。それにしても、あそこまで簡単にクーデターが成功してしまうのはどうなんでしょうか。大統領の味方が一人しかいないとはなんと人望が薄いことか。そこまで悪政を敷いていた大統領だったんでしょうか。アメリカ司令部にも「助けたくはないが、国防大臣よりはマシだ」呼ばわりされてしまっています。何にせよ、プーチン大統領相手だったらまずうまくいくとは思えない話です。基本的に本作はロシア人が観てもそれほど気を悪くしない程度にはロシアを立てているとは思いますが、プーチンが観たら鼻で笑って席を立ちそうな気がします。
ロシア側のことは置いといてアメリカ軍の方を見ると、こちらはただひたすらあまりにもカッコよすぎて、明日にでもアメリカ海軍に入隊を志願したくなるほどよく出来過ぎています。特にグラス艦長役のジェラルド・バトラーはいくらなんでもカッコつけすぎだろうと文句をつけたくなるほど冷静沈着で的確な判断力と深い度量を持つ超絶有能な人格者です。これでは潜水艦映画で定番の、部下の反乱も起こりようがありません。誰でも従うに決まってます。また、ネイビーシールズの隊長は勇猛な荒くれ者風ですが、こちらはどんなに絶望的な状況でも決して部下を見捨てない人情味溢れまくる人物。こんな素晴らしい上官たちがいるのであれば、誰でもアメリカ海軍に入隊したいと思うことでしょう。
とはいえ、プロパガンダと非難するには少々美化が露骨すぎて効果が薄いかなとは思います。が、それでも中学生以下のお子様が本作を観たら、将来の夢をユーチューバーからアメリカ海兵に変更しかねない程度の威力はありそうです。
ということで何やかんやケチをつけてはみましたが、細かいことを気にしなければすごく面白い映画なのは間違いないので、よほどアメリカ軍が嫌いな人でなければ普通にオススメです。