製作:2018年カナダ・アメリカ
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
希少な宝石を採取するため、大気汚染された危険な惑星へとやってきたデイモンとシーの父娘。穴場を見つければ、貧困から脱却できるはずだった。しかし大気圏突入時に宇宙船が故障し、帰る手段を失ってしまう。しかもそこには彼ら以外にも一攫千金を狙うならず者たちが潜んでいた。
何の予備知識も無くレンタルしてみましたが、これはメチャクチャ面白かったです。
異星を舞台としたSFですが、話にも映像的にも派手さは全く無く、かなり低予算で小規模なスケール感。しかも何だかやけに古臭いというかレトロな雰囲気。大昔のSF短編小説を読んでいるような懐かしい味わいの非常に地味な映画です。そういうのが嫌いでない人は、余計な前情報は入れずに今すぐTSUTAYAに走るべきかと思います。
異星を舞台にした低予算SFの世界では、登場人物は異星だと言い張っているのにどう見てもその辺のどこにでもありそうな単なる森の中にしか見えない…という悲劇が起きがちです。ひどいものだと宇宙服すら着ないのでますます近所の森をうろついてるだけにしか見えない作品すらあります。
本作の場合、低予算なりに小道具のディテールにこだわりまくることによって、CGを乱用しなくてもただの森を異星であるように見せることに成功しています。ノストロモ号を思わせるレトロな宇宙船の内部、グロテスクな宝石の採取方法、薄汚れた防護服と清浄機、変な銃、応急治療セット、腕の切断シーン。そして緑の月。どれもビジュアル的に大変印象深いです。
ストーリーは一攫千金を夢見た父親によって危険な惑星に連れてこられた娘の受難というものです。危険な惑星と言ってもクマとか恐竜がいるわけではなく、直接の問題は大気汚染だけ。それは清浄機と防護服さえ付けていれば対処できる。のですが、真の問題はそこに蠢く様々な悪党共の方。宇宙が舞台だろうが結局は人間です。
序盤のネタバレになりますが、父親は先に来ていた荒くれ者の採掘者と争いになり、あっさり殺されてしまいます。で、一人では何も出来ないシーは輸送船へ帰るため仕方なく父親の仇と行動を共にすることになります。生き延びるためには、どんな相手とでも取引し、利用せねばならない。この時点ではそんなドライなメッセージを感じました。その後もシーたちは危険な悪党たちと出会っていくのですが、悪党と言っても会話が出来ない相手はおらず、どうにかして交渉・取引をして切り抜けようとしていきます。その辺は一歩間違えば殺されるかもしれない緊張感が漲っています。そういった危機を何度も協力して乗り越えることで、シーと父親の仇の男との間に奇妙な絆のようなものが生まれてきます。人間関係とは利害の一致が全てある。というような殺伐とした雰囲気が徐々に変わって来るその辺の感情の機微が、何だか妙に心地良い。これが本当に仲の良い父娘だったらあり得ない話ですが、父親もまた娘を道具としか見ていない風だったからこそ活きてくる展開なのかなと。それに説得力を持たせる役者の演技力も素晴らしい。
ということで、冒頭にも書きましたが非常にオススメです。
監督・脚本のクリストファー・コードウェルとジーク・アールという人たちは今後要注目かなと思います。