製作:2018年アメリカ
発売:カルチュア・パブリッシャーズ
グラハム家の祖母エレンが死んだ。その娘アニーは、夫や子供と共にその悲しみを乗り越えようとする。しかしおばあちゃん子だった娘チャーリーがハトの首を切るなどの奇行を見せはじめ、ついには決定的な悲劇が訪れる。崩壊していく家族を影から狙う者、そして祖母エレンが残したものとは一体何なのか。
やたら怖い恐いと良い評判が聞こえてきたホラー映画ですが、127分もあるのでつい後回しにしてしまい本日やっと鑑賞しました。
しかし、正直大して怖くはありませんでしたね。私がホラー映画ばかり見過ぎて感受性が鈍磨しちゃってるのもありますが、心霊や殺人鬼、怪物と比べると「悪魔」というテーマはクリスチャン以外には理解しにくいのではないでしょうか。「悪魔崇拝集団の狂気」もアメリカではリアルな恐怖として存在するかもしれませんが、日本ではあまり聞きませんし。
少なくとも本作の場合、信仰心があってかつ「地獄の王ペイモン」についての知識は当然として本当に畏怖心を持っている人じゃないと「怖い」という感情には結びつかない気がします。
ただ、本作はオカルトな悪魔崇拝とは別にろくでもない家族とその血筋からはどうあがいても逃れられない、という側面からの精神攻撃もありまして、こちらは回りくどい悪魔崇拝と違ってストレートに観客の神経を逆撫でしてきます。ヒステリックに罵り合って崩壊していく家族の描写はかなりリアルで嫌悪感を催します。序盤の交通事故とその後のもめ事は悪魔とか関係なく心胆寒からしめる威力がありました。
↑話の発端となるエレンの娘アニーはジオラマアーティストとかいう珍しい職業。自宅や家族も含めた身近なものを題材にジオラマを製作。
「登場人物はみな悲惨で絶望的な仕組みの中の駒」
と直球なセリフもあり、一家が何者かの意のままに動かされていることは序盤から示されます。
しかし、それが何なのか?
というのが非常に分かりにくい。
怪奇現象はくどいくらい色々と発生するのですが、祖母エレンの親兄弟は皆死に至るほどの精神病を発症しており、その血を引くアニーとその子供二人も精神的にかなりおかしくなっている。なので怪奇現象が単なる幻覚に過ぎないのか、それとも本当に超自然的な何者かが存在するのか?が実に曖昧。
これは祖母エレンが生前悪魔崇拝集団のリーダー的ポジションであり、その仲間たちがグラハム家へよからぬ目的で近づいていることが分かってからも同じです。悪魔崇拝集団が「地獄の王ペイモン」を復活させようとなんか画策してると言われても、そんなもん本当にいるわけないしな…としか思えない。なので、こちらとしては悪魔そのものよりもイカれたやつらが行おうとする「儀式」そのものが怖いのかな?と考えるわけです。イケニエとか捧げそうだし。
そして、それまで助走するかのように直接的なショック描写を出さず「不穏な何か」をジリジリ積み重ねて続けていたのを、終盤になっていきなり爆発させてきます。訳が分からんながらも不気味さのレベルは相当高いです。ここでようやく精神異常者の妄想などではなく、モノホンの悪魔が存在するのだと理解が追いつきます。
しかし、その「地獄の王ペイモン」とやらがどんだけ恐ろしいものなのかがちっとも分からないので「ああそう」とどうしても冷めた気分になってしまいました。
いや、もちろん悪魔復活の儀式を遂行するために数々の謀略を巡らし、死してなおそこへ誘導し切ったエレンの深謀遠慮とかそういう面での怖さはありますが。やはりあくまでも悪魔、悪魔崇拝そのものへの恐怖心を深く呼び起こすためのホラー映画なんじゃないかなと思いました。
なので信仰心のカケラもない人が観ても楽しめないタイプのオカルトホラーだと思いますが、「エクソシスト」や「オーメン」をホラー映画の原点として刻み込まれた年代の人ならイケるのでしょうか。
127分と長尺ながら実に細かいところまで神経の行き届いた質の高い映画だとは思いますが、私の波長には合いませんでした。