毎回のようにジャケットへの突っ込みから入るのもアレですが、
「ニコラス・ケイジ 2人の女の罠に嵌る」
ってこの内容でそれはナシでしょう。
女には、男の知らない“顔”がある
高級住宅街で愛する妻子と暮らすブライアン。
そこに、シッターとして雇われたケイティが現れる。
美しく魅力的な彼女には、恐るべき秘密があった。
不可解な行動をする妻、発見された死体。
何が真実で何が罠なのか?狂い出した歯車は、もう止まらない―。
ニコラス・ケイジ、2人の女の罠に嵌る!超豪華キャストが放つ、戦慄のサスペンス・スリラー!!
(アルバトロスHPより)
あくまでアルバトロスはあらすじもそういう感じで押してきてますね…。
ですが、ニコラスケイジはさほど出番の多くない脇役に過ぎないし、
2人の女性も彼を罠に嵌めたいとか全く思ってないです。
本作の主役はニコラスケイジの奥さんである外科医アンジェラと
彼らに雇われたシッターのケイティであり、
主題はこの2人の女性の間に勃発する激しい争いです。
ニコラスケイジはそれに翻弄されるというかただ右往左往するだけの飾りとなっています。
ニコラスケイジの職業が何なのかは不明でしたが、
妻アンジェラは外科医でもあり、彼らは凄まじい大豪邸で一人娘コーラと共に優雅なセレブ生活を送っています。
そこに友人のツテでやってきたのが、コーラと同い年の娘を持つシングルマザーのケイティという女性。
彼女はDV夫から逃げ出してきた憐れな貧困層であり、娘同士が仲良くなったこともあって、
アンジェラたちは彼女を住み込みのシッターとして雇うことにします。
呑気な富裕層の油断に付けこんで取り入り、自分の居場所を確保するために暴走してサイコ化してしまう…というありがちな流れを想像しながら観ていました。
前半ではまだ、彼女らは友人として気の置けない関係を築く描写にじっくり時間が費やされ、不穏な様子などありません。
たくさんの女性に囲まれてリラックスしているニコラスケイジ。
しかし彼ら夫妻には悩みがあり、それはニコラスケイジが大家族を望んでいるのに
アンジェラはすぐ流産してしまう体質で、すでに5回も出産に失敗しているということでした。
何もかもを手にしているかのようなセレブ夫妻でも、子供だけは手に入れることが出来ない…
…と言ってもコーラという娘はいるんですが、一人では足りないというわけですね。
そんな彼らは卵子提供者と代理母を使ってでも第2子を得ようと試みます。
しかし紆余曲折あって、代理母をケイティに頼むことになります。
そしてケイティが妊娠し、お腹が大きくなるにつれ
これは自分の子供である、そしていつも世話しているコーラも自分の娘であると
思っているかのような言動が目立ち始めます。
それを聞いたアンジェラは、卵子も母体も自分とは無関係である自分の立ち位置を見失ってしまい、精神的に不安定になりはじめ、2人の間で衝突が起きます。
ニコラスケイジは基本的にただの傍観者で、彼女らの争いには入って来ません。
というか、「代理母の生んだ子供は誰のものなのか」というテーマが
私には理解しにくい領域のテーマだし、男は絡めにくいかもしれません。
「女性には裏の顔がある」という煽り文句でしたし、
私は「そういうのってその辺のスラッシャーホラーよりよっぽど怖いよなあ」
などという期待を持って鑑賞していたのですが、
アンジェラもケイティもむしろそんな二面性など全く無かったように思えました。
子供が作れない体だけどもっと子供が欲しい、というのは強欲かもしれませんが
その財力があるのであれば法的にも何の問題もなく欲求を実現できる世の中であり、
アンジェラはそれを利用したにすぎません。
一方でシッター兼代理母のケイティは、実際に産むのも育てるのも自分でやるわけで、
「これは自分の子供だ」という感情を持ってしまうのも仕方がないように思えます。
彼女は里親育ちなのでそういう感情がなおのこと強く出てしまいます。
それを非難された時に出てくる
「あなたは何も犠牲にしていない」
というセリフには彼女が単なるサイコな悪役とは思えない説得力があります。
ケイティは別に裏の顔を持っていたわけでもなく、
ただ相手に対して「子供を育てる資格があるのかどうか」を判断し、
それがないと思ったら自分の子供にしてしまう。という行動原理を最初から実行していただけのように見えました。友人を殺害するくだりは悪役化するためにとってつけたような余分な印象があります。
アンジェラはただカネを出しているだけで、
やりたいこと(外科医の仕事)を優先して子供を産むのも育てるのも完全に他人まかせにしている。それでも理想の家族構成を築きたいし、子育ての面倒なところは見ないで子供の愛情だけを得たい。
単純な善悪の二元論では図れない対立だと思いますが、
この映画ではあくまでもケイティがサイコな悪役という建前でストーリーが進行し、
そういう視点で見れば一応スッキリしなくもない勧善懲悪的なハッピーエンドを迎えます。
しかし慈愛に満ちた歌が流れるエンドクレジットはバックの映像が大変恐ろしいものになっており、ことはそう単純なものじゃないのだということを主張してきます。
私の好みには全く合いませんでしたが、
「代理母」をテーマにした心理サスペンスと聞いて興味を持った方なら観てもいいんじゃないでしょうか。