製作:2018年アメリカ・ハンガリー
発売:トランスフォーマー
西暦2156年、地球の食料は枯渇し、人類は主に宇宙ガニを糧にして生きていた。
惑星間漁船の船長リチャードは宇宙ガニ漁で生計を立てていたが、ある時謎の空間ホワイト・スペースにいるというドラゴン型エイリアン「天龍」と遭遇する。父親を天龍に殺された過去を持つリチャードはクルーの反対も顧みず天龍に戦いを挑もうとするが、宇宙海賊や寄生虫の襲撃に遭ってしまう。
宇宙空間で漁業に勤しむ、というちょっと変わった設定のB級SF。
宇宙×魚介類と言えば真っ先に「ダライアス」を思い出しますが、本作に出てくる魚介っぽいのはカニだけ。もっと水棲生物っぽいのが色々出てくれたら個人的にはうれしかったのですが。それこそクジラとか。天龍は何となく「メタルブラック」に出てきそうなビジュアル…って何人に通じるかわからん例え話はさておいて、映像的には全国で劇場公開してもおかしくないくらい良く出来ています。宇宙ガニ漁のシーンといい天龍戦といい文句なしにスペクタクル。
ストーリーは「白鯨」をモチーフにしているようですが、私は読んだことがないので比較できません。なので「白鯨」が悪いのかどうかは知りませんが、本作のストーリーは実に面白くない。せっかく映像が素晴らしいのに、お話が盛り上がらなさ過ぎてすごくもったいないと感じてしまう作品でした。
主人公・リチャード船長の目的はかたき討ちと非常にシンプルだし、クライマックスの天龍戦だけを見るとこれ以上ないほど熱く盛り上がるバトルシーンのような気がします。なんですが、問題は登場人物がかなり多く、それぞれが別々の目的で勝手に動きすぎてて本筋に集中出来ないってことです。
↑パワードスーツで宇宙ガニ漁。スーツは未来的でありながらやってることは実に原始的。
船長は天龍を倒すことしか頭になく、副船長の弟はそんな兄に反発、ヒロインは天龍を生け捕りにしたい、とその辺はいいです。王道です。しかし、他のクルーが漁船内不倫で危険な三角関係を築いているとかはあんまり要らないと思うし、天龍の寄生虫に侵されたクルーがサイコ殺人鬼に変貌してスプラッターホラーになるくだりはもう全く要らんと思います。なんで寄生されるとサイコ殺人鬼になっちゃうのか。もともとサイコ野郎だったのかもしれませんが。
↑ホワイト・スペースへ帰っていく天龍。この宇宙空間を泳ぐように移動する謎の巨大生命体は一体何であるのか。それは分かりませんが、船長以外のクルーにはカネと食料にしか見えていないようです。ツバが特に貴重品らしい。食料として。燕の巣でもあるまいし、龍とはいえ唾液なんて摂取したくないなあ。凶悪な寄生虫持ちだし…。
で、船長がせっかく単身パワードスーツ一丁命掛けで天龍と血沸き肉躍る死闘を繰り広げているのに、船内では同時多発的に内輪もめやらスプラッターホラーが起こっていてほとんど誰もそんな船長のことを気にかけてないし見てもいない。そこは何か一体感みたいなものがほしかった。
「白鯨」にもこんな寄生虫ホラー展開はたぶん無いと思うんですが、どうしてこうなったのか。やたら古臭い宇宙船のセットといい粗暴な肉体労働者風のクルーたちといい、初代エイリアン的なノリも入れたかったんでしょうかね。
サイコ殺人鬼も寄生虫も単品なら別に嫌いではないというかむしろかなり好きな方ですが、何でもかんでも一緒に盛り込めばいいってもんでもない。船長のかたき討ちに関係ないところは不純物だと思います。例えて言うならカレーライスの中にシイタケやかりんとうがゴロゴロ入ってるぐらいの邪魔臭さを感じてしまいました。
というわけでそんなに面白いとは言えないものの、宇宙でカニを追いかけたり、龍のツバを喜々として集めたりと奇抜さに着目する分にはそこそこ楽しめる珍品ではあると思います。