製作:2018年アメリカ・イタリア
発売:ギャガ
1977年のベルリン。ヘレナ・マルコス舞踊団へ入団するため、アメリカからやってきたスージー。しかし、マルコス舞踊団ではダンサーが謎の失踪を遂げる事件が多発していた。心理療法士のクレンペラーは失踪した患者を探すうちに舞踊団の秘密に近づいていく。
ダリオ・アルジェント監督作品の中でもおそらく最もヒットしたであろう「サスペリア」のリメイク版です。
私もホラー映画マニアとしてダリオ・アルジェント作品にハマっていた時期がありました。
と言ってもオリジナルの「サスペリア」(1977年)はそれほど好きな映画ではなく、あれはギラギラと毒々しい照明にこれまたギラギラと神経を逆撫でて来るゴブリンサウンドで狂気じみた残虐殺人シーンを彩っただけの頭カラッポな見世物ホラーでしかないと思います。まあホラー映画的にはそれで正しいとも思うんですけどね。ゴブリンサウンドは大好きですし、盲目のピアニストが自分の盲導犬に喰い殺されるくだりとか、部分的には気に入ってるところもあります。
私としては、アルジェントの最高傑作はやはり世間でも言われている通り「サスペリアPART2」の方ではないかと思います。この作品の完成度に比べると、「サスペリア」はただアルジェントが自分の殺人衝動を爆発させただけの無軌道な映像に見えるんです。そんな感性だけで作られた映画をリメイクしてもしょうがないというか。どうせリメイクするなら「PART2」にしてほしかった。
知らない人の方が少ないとは思いますが「サスペリアPART2」について一応補足しますと、「PART2」とか付いてますが「サスペリア」の続編ではなくむしろその2年も前(1975年)に作られた作品です。内容的な繋がりとか何もありません。「日本の配給会社はなんてデタラメなんだ」と私が初めて感じた詐欺邦題でもあります。内容は素晴らしいんですが。
ということでアルジェントファンとしては本作も劇場で鑑賞するつもりだったんですが、本作の上映時間はなんと驚愕の2時間32分。いくらなんでも殺人的に長い。長すぎる。それで劇場で見るどころか新作で借りる気も失せてしまい、日本公開から半年以上経ってようやく鑑賞に至ったというわけです。
で、本作の感想なんですが、これが全然怖くもなければ印象的な音楽も皆無だし殺人シーンも驚くほど少ない。というか一向に人が死にません。全くホラー感がない。オリジナルの特徴だった毒々しい照明もあえて逆をいってるのか、色彩そのものが乏しい映像ばかり。つまり、ストーリー以外は完全に別物です。
じゃーそのストーリーはオリジナルを踏襲しているのか…ということなんですが、たぶんそうです。たぶん、というのは観客を怖がらせる目的に特化していたオリジナルにおいてストーリーはかなりどうでもいい内容であり、私も最後に観たのが20年ぐらい前なのでほとんど覚えていないからです。どうでもいいとこだけ踏襲したリメイク版。
それでもオチが全く異なっていることはさすがに分かりましたが、なんかほっこりするような感動的なラストだったのがどうも…戸惑いました。オリジナルは盲導犬が飼い主を喰い殺すような腐れ外道一直線な不条理残酷ホラーだったのに、どうしてそんなことになるのか全然理解できません。いや、あのじいさんはいつ犬に食われるんだ?と思って観てたらあんなにも優しい扱いだとはとても予想出来ませんでした。やっぱり私の心が汚いんですかね。
オリジナルの良かった点を全て殺して脱ホラー映画化させ、何だかよく分からない前衛芸術暗黒バレエ映画にしてしまった。このリメイク版に抱いた印象はそんなところです。オリジナル版が好きな人は全く見る必要はないでしょう。せめて音楽をゴブリンに担当させていればまだ「サスペリア」らしくなったかもしれないのに…と悔やまれます。音楽は完全に空気でした。
ただ、完全に別物として、前衛芸術暗黒バレエ映画として観ればクオリティそのものは高いです。2時間32分をそれほど苦にせず鑑賞できることはできます。
暗黒舞踊だかコンテンポラリーダンスだか分かりませんが、その辺の描写はかなり本格的かつボリューム満点なので舞踊に興味のある人は楽しめるんじゃないかなあとは思います。