製作:1977年アメリカ・イタリア合作
発売:KADOKAWA
カナダの片田舎で漁師をしている男ノーランは、水族館へ売るためにシャチを生け捕りにしようとする。しかし、捕らえたメスのシャチは子供を流産した末に死んでしまった。その一部始終を見ていたオスのシャチは、妻子の仇を取るべくノーランを追いつめる。
「ジョーズ」の後追いで出てきたアニマルパニック超大作。
サイエンス・パニック・アドベンチャー・シネマ略して「”スパック”・ロマン」などという珍妙極まりない触れ込みで公開された本作ですが、意外にも悲哀に満ちたシリアスな雰囲気で、今観ると名作の風格さえ感じます。
しかし小学生の頃「ジョーズ」のホホジロザメに震え上がった身としては本作に対してひねくれた思いを抱え続けてきました。なんせシャチといえばホホジロザメの天敵であり戦力的には圧倒的に上であるという話です。
ジョーズがあれだけ怖かったのにシャチはもっと恐ろしいというのか?
少年漫画のインフレが時に納得いかないように、いくら強いとはいえあの可愛らしいシャチを題材にしてジョーズのような恐怖とスリルを出せるわけがない、安易な動物選びをしやがって、シャチ映画のフォロワーなんて一つもないじゃないか!
…と本作から目を背け続けること数十年。
サメ映画と言えばジョーズだったのが今ではすっかりC級おふざけゴミカス映画のイメージを擦り込まれてしまったので、ようやくフラットな気持ちで本作を鑑賞することが出来ました。
体格、スピード、ジャンプ力、攻撃力、探知、耐久力、知能、社会性、かわいさ、
どれをとってもホホジロザメはシャチに遠く及ばないという我々サメファンにとっては認めたくなかった現実。
本作は冒頭からそれを容赦なく目の前に突き付けてきます。
↑欲深い漁師ノーランが最初に目を付けていたのはホホジロザメ。コレを捕らえて水族館へ売りつけようとしていました。しかし、たまたま居合わせたダイバーが襲われそうになり、近くにいたシャチがホホジロザメをあっさり倒してくれます。何という噛ませ犬扱い。
「シャチに比べたらホホジロザメなどカスも同然」
「シャチは賢くて優しく、人喰いザメから人間を助けてくれる」
というわけですね。
「ジョーズ」の恐怖が未だ頭に焼き付いていたであろう当時の観客に対してこのマウントポジション取り。その意欲は認めてもいい。シャチの方が強いのも分かる…しかし、サメが本当に恐ろしかったのは、その何も考えてなさそうな無機質で真っ黒な眼でした。目についた生き物全てを喰い殺すためだけに生まれてきたかのような、無軌道な殺戮マシンぶりが怖かったのです。
なのでいくら直接対決でサメを倒して見せられても、なんか違う。
なんか違うのですが、実際この後ジョーズのようなアニマルパニック路線とは全く違う方向性に物語が展開していきます。
あくまでもこっちは「復讐の虚しさ」「男の責任の取り方」というような悲しいドラマが中心。
これが「スパック・ロマン」なのか?
主人公は金目当てでシャチの母子を殺してしまった漁師ノーランですが、だからゲス野郎なのかというとそんなこともなく、自身も飲酒運転の車に妻子を殺された過去を持っていたためシャチに対して非常に申し訳ないという気持ちを抱え、さらに港を襲うシャチのせいで漁師仲間にも迷惑をかけてしまい、ますます後悔の念に苛まれるという実に辛気臭いムードを漂わせています。
もう漁師なんかやめて逃げてしまいたいノーランだったが、シャチが復讐を望んでいると知り再び海に出る決意をする。
これはもう「男の決闘」としか言いようがないものです。
動物相手にこんなドラマが成立するのは、「妻子の仇を打ちたい」と考えるほど感情豊かで知能の高いシャチならでは。なるほどとてもじゃないがサメにはマネできない話だがよく考えると別にマネしてほしくもない話です。
…しかし最終決戦が迫るにつれ、西部劇とかでよくありそうな復讐劇をただシャチに置き換えただけなのでは? 別にシャチを使わなくても人間同士の話でも良かったのでは?
という元も子もない考えが頭をよぎります。なぜなら、
↑クライマックスでノーランと熱く哀しい決闘を繰り広げるシャチの図。
いくら獰猛だ何だと言われても、やっぱりシャチは可愛すぎた。
これは陸上で言えばパンダと人間が戦ってるようなもので、闘志とか悲哀よりもまずほのぼのしてしまい全く盛り上がれない。やっぱりシャチはどう考えても人間を襲うよりは鴨川シーワールドとかで家族連れ相手にひっくり返ってお腹を晒しているのが似合う動物です。私もシーワールドには行けませんが動画はたまに見て和んでますし。
というわけでシャチが好きな人にオススメ…と言いたいところなんですが、傷ついて血にまみれたシャチが痛々しくてツライから無理。
かと言ってアニマルパニック的楽しみもあまりないので、本当に哀しくも空しい果たし合いで虚無的な感傷に浸りたいという気分の時に鑑賞すべき映画かなと思います。