ハイパーソムニア　感想

人身売買をテーマにしたアルゼンチン産のサスペンス映画です。
アルゼンチン映画なんて私はほとんど観たことないんですが、
南米の中では結構な映画大国らしいですね。
こんなもん観ちゃったら「色々やばそうな国だな…」としか思えませんが。

舞台女優ミレナがどこかに監禁されているラリという少女になる幻覚を
たびたび見るようになるのだが、それは夢なのか、現実なのか？
ラリという少女は実在するのだろうか？彼女は脱出できるのか？
という感じの話です。

前半は虚実のラインが非常に曖昧な感じで描かれ、正直わけがわかりません。
ラリ視点が単なる幻覚の産物とは思えないので
既存のサスペンスのトリックから考えるとあのネタかな～こっちかな～と
色々想像はするのですが、ディテールがいちいち奇妙なので無駄に混乱させられます。

例えばミレナが舞台女優になるために朝の４時に劇場へ面接に呼ばれて行ったら、
変なアイマスクの女に体を舐め回され、その結果合格したくだりとか。
それも幻覚の一種なのか、それともアルゼンチンではそういう面接もあるのか。
あまりに難解すぎて観る映画を間違えたかなと悩んでしまいました。

セリフによる状況説明もほとんど何もないし、
こりゃ芸術映画寄りのなにかか？…と軽く絶望感すら覚えます。
単純明快なアメリカ映画に慣れ切った身としてはついていきにくいことこの上ない。
ガンコな舞台監督とか一癖ありそうな共演者や代役との駆け引き…みたいなのはストーリー上無意味とはいえまだ理解できるとしても、
ラリ視点から覚めたらいつの間にかパンツ一丁でスタンディングオベーションを浴びていて思わずおしっこ漏らしたりするのは、どういう…ん？いや、どういうあれなん？と戸惑うことしきりです。

しかし後半でレザーフェイスみたいなマスクの拷問大好き殺人鬼が出てきてから
映画の調子が妙に安っぽい方向に流れ出して驚きました。

人身売買組織には数人の女性が囚われており、
売春を強要されているかと思われるんですが
その施設には「赤い部屋」と呼ばれ忌避されている場所が存在し、
そこへ連れていかれた者は非常に残酷な目に遭わされてしまうことが
たびたび示唆されます。

馴染みのない国ということもあり、全体的に
「何をやり出すか分からん」という不安感が漂っていたので、
一体どんな部屋なんだ…
どんな酷い拷問をされてしまうんだ…

と１人でザワザワ怯えていたのですが、
ついにラリと仲の良い女性が連れていかれてしまい、
なんと腹をナイフで割き（刺し）、ゴキブリの入ったビンを傷に当てて火で炙り、
ゴキブリを追いやって体内に侵入させるという
壮絶にエグイ拷問を見せつけられ、鳥肌が立ちました。

…と言っても、以前観た「ワナオトコ」でアーキンが食らったのと同じものだったので
そこまでショックは受けませんでしたが。
ワナオトコオリジナルの拷問じゃなかったのか…
これ実は結構ポピュラーな拷問だったりするのかな…
人間って嫌な生き物だなあ。

「現在、アルゼンチンでは毎年１０００人の女性が
人身売買組織から救出されている」

…とのことなので、本作はその問題提起とか
世界に訴えるという崇高な志もあってこういう映画を作ったのだろう
と思いますが（本作は実話ベース？）
この殺人鬼だけは妙に娯楽色が強いというかウソくさく見えてしまうので
逆効果だったんじゃないかなと感じます。
まあ個人的にはコイツが出なかったら何も楽しめるポイントがなくなってしまいますが。

ということで、アルゼンチンの人身売買組織に興味があるか、
もしくは拷問系のＢ級ホラーが観たい人には一応オススメ出来ないこともない微妙な映画でした。