いや~…配給会社も大変ですなあ…。
この邦題といい、ジャケットといい、「頼む、何とか手に取ってくれ!!」という強い願いをすごく感じますよ。こんなん中身を見てからだと失笑物ですが、何か刺激的な雰囲気を出しておかないと誰も観そうにないですからねえ。仕方ないね。借りるしかないね。
本作は2015年製作のスペイン映画とのことですが、ジャンルがよく分かりません。アマゾン等には一応クライムサスペンスとはありますが。クライムサスペンスってどういう意味だったかなあ…。
「父の作った借金を返すために就職を決めたガラルダ。しかし心理学の単位を落としてしまい、就職の前提条件だった大学卒業自体が危なくなる。それを阻止しようと教授と交渉したところ、『私を殺せば単位をやろう』などと自らの殺人依頼を持ち掛けてきた。ガラルダは無事教授を殺害して借金を返すことが出来るのか?」
マッド・プロフェッサーと言うからには教授がヤバイ奴なんだろうなあと思いながら鑑賞していたわけですが、別にそうでもないという肩透かし。
教授は単に自殺したいけど出来ないという弱気な老人であり、自殺したい理由も、交通事故で四肢が麻痺した妻の治療代をねん出するために自分の生命保険を出したいという極めて人情的な内容。
マッドとか言って煽っている場合ではありません。
「死にたがっている人を殺すことは道徳的に悪いことなのか?」というシリアスなテーマで迫る、クライムサスペンスというよりはヒューマンドラマっぽいストーリーです。その点で言えば「悪の境界線」というサブタイは適切なのかもしれない。
まあ面白ければ何でもいいんですが、本作は全編通して地味で暗くて辛気臭い。マッドなプロフェッサーがボンクラ学生をブチ殺すようなサイコホラーを期待していたらこれ以上ないほど裏切られる羽目になります。
思わぬ殺人依頼を受けてしまったガラルダは、いくら借金取りに追い詰められ崖っぷちに立たされていようともそう簡単に殺人を犯すこともできない。とはいえ金と単位はほしい。
「彼は死にたがっているんだ、これは殺人じゃない」そんな葛藤から友人3人を巻き込んで中途半端に教授に危害を加えたりするのですが、やたら生命力の強い教授は橋から落ちようが時速100kmのクルマにはねられようが、なかなか死んでくれない。
「殺してしまった…どうしよう」からの「あれ、生きてる」の流れを何度も繰り返す様はいくら辛気臭い雰囲気でもさすがにコメディに見えてきます。
そんなはた迷惑な教授とガラルダに巻き込まれてしまった3人のボンクラ学生共が、
失敗してるのに「殺人に加担してしまった」と悩んで隠ぺい工作を試みたり、報酬の存在をかぎつけて仲間割れしたりする様のボンクラっぷりが本当に酷い。この辺がおそらく「クライムサスペンス」と配給会社は主張したいのであろうと推察しますが、雑すぎ&行き当たりばったりすぎでさすがに無理があります。
まあでもこんな事件に巻き込まれたら普通の人はマヌケに右往左往するものかもしれません。そう考えるとリアリティがあると言えなくもない。ガラルダはともかく他の3人はそこまでのっぴきならない状況でもないんだしもうさっさと警察に全部話せばいいだろ、としか思えないのであまりスリルを感じる余地はありませんでしたが。
それにしても、あのオチはいくらなんでも酷すぎるんじゃないですかね。
いや、伏線が張ってあったのは分かりますけどね。
だからってアレはないでしょーよ…警察といい医者といい、スペイン人は一体どんだけ雑な仕事すんのよ。
久しぶりにあんなお口ポカーンなラストを見ました。
あれでヨシとするなら確かに悪の境界線を越えたマッド・プロフェッサーを描いたクライムサスペンスと言えるかもなあ…。
ということで、自殺志願者の教授を殺したいような殺したくないような曖昧な態度で右往左往するボンクラ学生グループを眺めた末に訪れる驚愕のラストでひっくり返りたい人はぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。