製作:2017年アメリカ
発売:ポニーキャニオン
ある日突然、親が子供を殺したくなる衝動に突き動かされるという怪現象が発生。それは、高校生の娘とまだ幼い息子の二人の子供を持つブレント(ニコラス・ケイジ)も例外ではなかった。万能ノコギリを振り回すニコラス・ケイジと子供たちとの激しい殺し合いが始まる。
「親が抱えるストレス」からの「子殺し」という鬱以外の何物でもないテーマをあえて明るく楽しく表現してきた怪作。
親が子供を殺したがるようになってしまう怪現象は何もニコラス・ケイジにだけ起こるのではなく、そこら中(世界中?)で発生したという設定です(その怪現象の原因についての説明は何も無し)
親子なんて…いや家族なんて所詮こんなもんよ、というシニカルなメッセージを感じないこともないんですが、それ以前に万能ノコギリを振り回して暴れまくるニコラス・ケイジが面白すぎて深読みしてる余裕もないぐらい笑えるブラックコメディでした。
ただ、本作は尺が85分と短めな割りにタメが長く、前半はニコラス・ケイジ…ではなくその妻ケンダルの苦悩に焦点が当てられます。
反抗期中の娘カーリーと衝突しがちだとか、老いに対する不安とか、仕事が見つからないだとかの普遍的なストレス。
その辺がかなり丁寧に描写される割には、後半で色々とぶっ飛んだことになるためあまり意味が無かったような気がしないでもないです。ケンダルも後半は他の親と同じように全力で子殺しに走りますからね。ただ、
母「家族なんだから、もっと相手を思いやらないと…」娘「どうでもいい!」というやり取りが終盤で反転してたのには吹き出しましたね。
↑後半、地下室に籠城するカーリーとその弟ジョシュを殺しにかかるニコラス・ケイジ。ちょっと暗すぎるかな。でもここが一番いい顔してた。
メインウェポンは万能ノコギリ。
我が子たちをブチ殺すために妻ケンダルと協力し全力で手を尽くします。
「万能ノコギリは、何でも、切れる」とか危ないことをつぶやきながら殺人鬼以外の何物でもない表情でにじり寄って来るシーンは実に最高ですね。これがニコラス・ケイジの演技の到達点なんだ、という感慨すら覚えます。
謎の怪現象で狂ったと思われるニコラス・ケイジですが、どうも怪現象が発生する前からだいぶおかしかったのではないかとも受け取れる描写があったりします。家庭を守る父親のストレスが大きいのだと言いたいにしろ、地下に隠れ家を作っていたところを見つかっただけで全てをハンマーで破壊し尽くすなんてのはニコラス・ケイジぐらいしかやりますまい。
このオレがこんな冴えないオヤジになってしまうとは思わなかったんだ…こんなに年収が下がるとは思ってなかったんだ…と吐き出すニコラス・ケイジがやけにリアル。そこは演技だけじゃなく本音も混じってそうな気がします。
クライマックスはそんなナイスミドルであるニコラス・ケイジと子供たちとの熱い近接戦闘になだれ込むのかと思いきや、その日はよりによって「おじいちゃんおばあちゃんが来る日」であった…というね。ニコラス・ケイジが子供を殺したくてたまらないように、彼の父もまた彼を殺しにやってきたのであった。
で、その祖父役がランス・ヘンリクセン。
なんとここにきて
「ニコラス・ケイジ vs. ランス・ヘンリクセン」
という全世界どこの会場でやっても満員札止めとなるであろう、夢のような対戦カードが突如実現したのです。このサプライズには私も大興奮。それも期待をはるかに上回る全身全霊の殺し合いに大笑い。ランス・ヘンリクセンは登場から退場までずっと狂っててもう息子の刺殺しか頭にないところが特に素晴らしい。
父親との心温まる回想を交えながら「パパをいじめるのはやめて~」と叫び逃げ回る少年。
…を鬼のような形相で追って万能ノコやツルハシを振り回すニコラス・ケイジ。
そんなニコラス・ケイジにナイフをブスブス刺しまくるランス・ヘンリクセン。
という、狂気しかない絵面に明るく楽しいBGMをかぶせられたらもう本当に楽しすぎて笑い転げるしかありませんでした。
ブラックコメディとして素晴らしく面白い作品ですが、個人的にはニコラス・ケイジとランス・ヘンリクセン両者のファンであるという人に強く勧めたいところですね。