キリング・グラウンド　感想

本作のストーリーは、
オーストラリアの山奥のキャンプ地を訪れた４人家族＋若いカップルが、
人狩りを趣味にしているサイコ殺人鬼２人組に襲われる。
というだけの極々シンプルなものです。
話や設定だけをみると、これまでに膨大な類似作が存在しており目新しさなど全く出せそうにない手垢まみれの題材と思えます。


しかし本作は、まずカップルがキャンプ地を訪れて幸せいっぱいにイチャつく場面、
４人家族がキャンプを楽しむ場面、サイコ殺人鬼２名のマッタリした日常、
という３つの別視点、別時系列を同時進行で描きます。
それも数分おき、時には数秒で視点が入れ替わるというせわしなさで、そこで何が起こったのかを少しずつじわじわと浮き彫りにしてゆく見せ方。
こういう細切れ時系列入れ替え構成は下手をすると単なるウザイ小細工倒れに終わってしまう危険性があります。
しかし本作は混乱せず観やすいように、観客の興味を引きつけ続けるように、大変気を配って丁寧に構成されていました。
BGMもほとんどなく無音に近い中、変に盛り上げる演出すらもせずただ起こった出来事を淡々と映し出すタイプの映画ですが、この構成のおかげでほどほどの緊張感を保ちながら中弛みもせず自然に観ていられる。普段からクソ映画を浴びるように観ているので、この映画のレベルの高さが余計によく染み渡ります。
ストーリー自体が平凡なものであっても、見せ方ひとつでこうも違ってくるものかと感心させられました。


また、ありがちと思えた設定ですが一つだけ珍しいひねり方をしたポイントがあります。
それは最初に襲われた４人家族の中に、赤ん坊に近い幼児がいるということです。



このキャンプ地で何かが起こっているらしいと勘づき始めたカップルの背後に映り込む赤ん坊。
４人家族とカップルの視点が初めて交錯する瞬間をまるで心霊ビデオか何かのようにさりげなく見せてくる手法に画面から目が離せなくなります。







楽しそうに人間狩りをして遊ぶサイコ野郎コンビ。
彼らの微笑ましい日常シーンが序盤にあったりしますが、
彼らの人となりも結局よくわかりません。
胸糞系を謳っている本作ですが、こいつらが被害者をいたぶるようなシーンは案外少なく、だいたい持ってる猟銃をぶっ放して１発でやってしまうので相当サッパリしている方です。
バイオレンス描写が苦手な人でもさほど問題なく観られる程度の弱い刺激しかありません。


とはいえ、胸糞系というからには主人公たちはこういうサイコ殺人鬼になすすべもなく全員やられてしまうようなバッドエンドを想像しながら鑑賞していました。
ところが本作はそんな凡庸なオチとは全く次元の違うユニークな後味。

胸糞系どころかむしろこれはかなりスカッとするタイプのクライマックスではないか？
と油断させてからのあのラストシーンを予想できる人が一体どれだけいるというのか。

そりゃあ非情な現実の訪れはあるに違いないと思っていても、まさかあんな見せ方…いや、直接見せはしなかったんですが、その現実を認識したうえでの、病院で彼女が彼を見つめるあの目。胸糞とはちょっと違いますが、安易な全滅エンドよりもよほど恐ろしいし後味悪いです。

観客に対して、こういう角度から感情をえぐってくる殺人鬼映画は初めて見ました。
絵的には派手なことは何も起こらない、地味な低予算オーストラリア映画ですが、刺さる人には刺さると思うので興味がわいた人はぜひご覧ください。