「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」
…大変素晴らしい邦題だと思います。
内容と合致していればね…。
本作はあまりなじみのない、ノルウェー産の映画ですが
暴力的なオヤジが除雪車を暴走させて悪党どもをミンチにしたり
悪党の車を跳ね飛ばすような96時間的な痛快娯楽アクション映画っぽい趣の煽り文句入りジャケット。
しかし例によって中身はこんな邦題&ジャケットからは全く想像できない、
痛快バイオレンス娯楽作どころか逆に静謐な雰囲気に包まれていると言いたくなるほど
格調高く、お上品にたっぷり間を取りつつ、時には変なブラックユーモアをねじ込みながら
復讐が復讐を呼ぶやるせなさを寒々しい大雪原を背景に表現しているような気がしないでもない、通好みの激渋な犯罪ドラマでした。
これはこれで悪くないんだけど、カツカレーを食べるつもりでいたら
精進料理が出てきたぐらいの違いに戸惑いましたね。
ストーリーとしては、
マフィアに息子を殺された除雪業者ニルスが、マフィアに復讐する。
というのが大筋となっています。
ニルス役はステラン・スカルスガルドという人で、60過ぎの親父…というよりもう爺さんです。
リアル息子のビル・スカルスガルドが「IT/イット」のペニーワイズ役の人だということに驚きましたが、それはともかく結構老け込んでいてあんまり強そうには見えません。
実際作中でも大したアクションはないし、別に元CIAでも警官でもありません。ただの除雪業者です。
私も雪国に住んでいますが、それにしてもノルウェーの雪景色はスケールが違いますね。
作中でも言及されてましたが、こんな年中雪が積もってるような国によく人が住んでるもんだと感心します。
ただ北欧は福祉が充実してますから、気候を除けば住みやすい国みたいですね。
そこら辺は彼らも誇りに思っているようです。
「温暖な福祉国家は無い」とか。
本作はバイオレンス映画というよりもむしろノルウェーの観光映画
として鑑賞した方が実は楽しめるかもしれません。
見たことのない景色、見たことのない生活様式、独自の文化などが垣間見えてなかなか興味深い。
逆に言えばバイオレンス映画としては間がありすぎてちょっと怠いし、言葉で語る映画でもないのでセリフもかなり少な目。
特にインテリアは、なんとなく家具メーカーのイメージがある北欧だけあって
実に妙ちくりんなものを見せてくれますね。
特にこのイス…悪趣味と上品の境目にあるような変態的デザイン。
と言ってもこの家はマフィアのボス宅なので一般的ノルウェー国民がこんなイスを買うものかどうか分かりませんが。
まあ観光映画としての側面はともかく、
「怒りの除雪車」というワードに期待していると、
全然殺人に使われない除雪車に肩透かしを食らわされます。
「地獄の殺人救急車」の救急車並みに除雪車が攻撃に使われません。
ニルスはなぜかパンチがやたらと強く、先制パンチを一撃喰らわせるだけでマフィアたちはもうグロッキー状態。ニルスは彼らから情報を引き出したら殺して滝に放り投げるのですが
本作は死人が出たらいちいち画面を暗転させ十字架と死者のフルネームを表示するという
変な手法をとっています。
ニルスがマフィアを殺す度にそんなもんが表示されるのが段々シュールに見えてきて笑いを誘ってきますが、その殺人がもとで別のセルビアンマフィアとの抗争が起こったり殺人がどんどん増えてくるともう殺人シーンすら省略されはじめ、不穏な会話のあとに十字架と名前を唐突に表示するだけで観客にその死を伝え、ある意味テンポよく登場人物が退場していきます。
銃撃戦でまとめて死んだ時はずらりと十字架が並ぶことになりますがそれまではどう見てもシリアスだったのにこれのせいでコメディに見えてくるから困ります。
まあ、十字架を除けば名作の風格すら漂うバイオレンスムービーでしたが…
最後の最後にとんでもなくふざけたことをやらかしてくれます。
ニルスと、共通の敵を追っていたセルビアンマフィアのボスが言葉を交わすこともなく、
しかし何だかリスペクトし合っているような視線を交わす味わい深いラストかと思いきや、
何なんだアレは…
これには「こんなもんただの純粋なお笑い映画だよ」
と監督にコケにされているような気分になりましたが、
不快に感じるべきなのかどうかすらよく分からない奇怪な余韻を残してくれやがりました。
ということで、変な物を見たいという人にはオススメです。
1. 無題
Re:無題