製作:2018年アメリカ
配信:NETFLIX
友人と山奥の別荘へ鹿狩りに来ていた中国人医師のパトリックとその妻。彼らが休暇を楽しんでいると、そこに偶然逃亡中の凶悪犯たちがやって来てしまう。パトリックは心臓をナイフで刺され、殺されたかに見えた。しかし彼はかろうじて生きていた。ナイフを胸に刺したまま固定し、瀕死の状態で悪党共から妻を救おうともがく。
全く何の先入観も無く鑑賞しました。が、始まってすぐホーム・インベージョンものと分かり、ちょっと後悔。モンスターに人間が喰い散らかされる映画は大好きですが、何の落ち度もなく家でくつろいでいた善人がいきなり侵入者に蹂躙されまくる話はなんかリアルに胸糞悪くてイヤなのです。反撃のカタルシスがあればまだ良いのですが、このジャンルは「ファニーゲーム」の影響が強いのか後味悪く終わるパターンが多い気がしていまいち観る気になりにくい。
そういうわけで序盤は気が乗らなかったのですが、本作は相当ユニークなテーマでもってホームインベージョンを描いていました。
冒頭で友人と鹿狩りをするパトリック。
しかし心優しい医者であるパトリックは、鹿を殺すことに抵抗がある。楽し気に鹿に矢を打ち込む友人を見て複雑な表情。
その鹿は心臓に矢が刺さって倒れてもまだ死んでおらず、最後の抵抗を見せた。
「矢が傷口をふさいでいた。そう簡単には抜けない。まだ生きられた」
「肉を喰いたければ、殺すしかない」
この鹿狩りのシーンは明らかにその後彼らの身に起きることを示唆しています。草食動物は人間に殺されて喰われるが、彼らもまた悪党共によって食い物にされる。ありきたりな話だが弱肉強食がこの世の摂理であるというわけですね。
が、本作のおかしな点は
「心臓に刺さったものを抜かなければまだ抵抗できる」
という部分までそのまま人間に適用していることです。これには驚きました。メタファーの類じゃないんかと。
終身刑で護送中の大物犯罪者を奪って逃亡中の悪党グループ。突然やって来た彼らによって友人を射殺され、パトリックも胸にナイフを深々と突きたてられてしまう。
まあ…どう考えても死にます。普通に大量出血してるし…。
「ナイフが傷口をふさいでいるからセーフ」理論だとすると出血もしないはずでは?出血している時点でアウツなのでは?と思うし、そこに目をつぶったとしても、絶対安静が必要なのは明らかで、立ったり歩いたりなどしようものならよけいに心臓やら血管やらを傷つけてしまって完全にアウツになるのでは?
としか思えませんが、なんと本作はそんな状態の男が「銃で武装した荒くれ者揃いの悪党5人組」をなぎ倒し、愛する妻を救わなくてはならない話なのです。そんなんドルフ・ラングレンでも多分無理です。それどころかこのパトリックという男は見るからにひ弱そうで、ハンデなしでも速攻でやられそう。というか実際やられたわけだし、何なら私でもワンパンで倒せてしまいそうなくらい頼りなく貧弱な草食系です。武器は妻を愛する心だけ? 精神が肉体を凌駕する?
そんなリアリティ皆無な展開ですから、いっそお笑い展開に走るのもありかと思いましたが、本作はあくまで完全シリアス。死にかけながら刺さったナイフをテープで固定し、息も絶え絶えに無言で悪党の各個撃破を狙うパトリックの姿にはひたすら悲壮感しか感じられません。
しかし本作がどうもイカンのは主人公のレベルに合わせて悪党も滅茶苦茶虚弱体質にされてしまっているという点です。は?今ので倒したの?嘘だろ? と驚いてしまうシーンが多い。勝手に鹿の角に喉を引っ掛けて死んだり、ちょっと足払いしただけでコケて失神したり、ノコノコ車の前に出て来てつっ立ってたり。
これではまるでスペランカー同士の戦いを観ているかのようでした。
低予算ながら悪党のボスをあの超有名俳優ロバート・パトリックが演じており、さすがに彼だけはスペランカーよりは強そうな雰囲気を醸し出していました。まあ、醸していただけかもしれませんが。
ラストは納得いかないを通り越して目が点になりました。
せっかくあれだけの極限状況を作って、究極の選択をするパトリックの姿を感動的に見せられた直後に、あんなラストシーンをいきなり映し出されても…さっきの選択は一体何だったんだ?と疑問符しか浮かびませんでしたね。草食動物と人間の違いは愛と不屈の精神だ…という話ではなかったようです。自分の読解力に自信が無くなってきましたが、それにしても何か変だったと思う。
ということで非常に微妙な映画ですが、心臓にナイフが刺さったまま悪党を倒すという絵面はそれなりにインパクトがありましたし、暇つぶし程度には楽しめるかと思います。