製作:2017年アメリカ・カナダ
発売:ニューセレクト
ノースダコタ州、デビルズゲート郡。失踪した母子の捜査のためやって来たFBI捜査官フランシス。その母子の住んでいた農場へ行くと、家の窓を塞ぎ周囲を殺人トラップで埋め尽くした狂気の男がいた。
彼は失踪した妻子を取り戻すための何かを計画し、地下室に謎の生物を監禁していたのだった。
「アブダクション」とは通常エイリアンに人間が誘拐されることを指した用語かと思いますが、本作は逆に「エイリアン、監禁」と謳いつつギーガーのエイリアンみたいなやつが捕まってるジャケ絵。なかなかそそられますね。しかしこの手のエイリアン物では大抵ジャケにはギーガーのエイリアンみたいなやつが描かれているものの、実際に出てくるのは全くの別物と相場が決まっております。果たして本作もキバの生えたグレイというかなんか微妙なやつが出てきました。
とはいえ、本作はかなり出来が良いです。母子失踪事件の容疑者である夫を調べるため、捜査官が彼の農場を訪ねるという導入から得体の知れない緊張感が漂っています。そこの地下室にエイリアンが監禁されている…という大ネタはジャケで既にバラされているわけですが、その目的や事情を小出しにしてくる風呂敷の広げ方は上手い。なかなかの吸引力です。登場人物は少ないし、舞台が田舎の農場に限定されているので相当の低予算作品かと思いますが、安っぽさはほとんど感じません。
ネタそのものといい、オカルトを受け入れることに何ら抵抗の無いFBI捜査官といい、「X-ファイル」に酷似した雰囲気があります。
エイリアンに誘拐されてどうのこうのという話はX-ファイルを挙げるまでもなく無数に存在しています。が、本作の場合妻子をアブダクションされてしまった男が力技でエイリアンの1人をアブダクションし返してしまい、人質交換を狙っているという話なのだからたまらない。
普通この手のエイリアンは人類のはるか上を行く技術レベルとそれにふさわしい知能を持ち、農家のオッサンなど一方的に蹂躙するものなのですが、逆にボコられて檻に入れられてしまうという体たらく。すごく弱そう。しかも例によってヌメヌメ粘液まみれのスッ裸で、キーキー唸り声を上げているところを見ても知的生命体の威厳などほとんど感じられません。バッチイ全裸でジタバタすんなと。
エイリアンと人間が互いに誘拐し合うというヒネリを入れてくるような気の利いたアメリカ人でも、そのステレオタイプなエイリアン像はやはり譲れないらしいです。戦闘ではサイコキネシスで攻撃してきたりしますが、そこは意外にもかなり残虐。しかしやはり知性の欠片も無い。というか、そんな凄い超能力を持ってるくせに何捕まってんだと言いたくはなります。
ただ、本作においてその生物は地球外知的生命体と断定されているわけではなく、「魔王に仕えし悪魔」という純然たるオカルトモンスターである可能性も存在します。円盤とか全く出てこないし。原題も「デビルズゲート」ですしね。その農場に「悪魔の門」があったという感じのオカルト話ではある。マタイ伝とかコーランからの引用もたびたび出てくるし、宗教色はわりと強めなので理解しにくい面もありました。
オチについては悪魔的エイリアンの真の目論見が発覚した段階で大体想像はつくものでしたが、それでも終盤までハラハラさせてくれる良作でした。アルバトロス系のパチモン臭いテキトーなジャケでもたまにこういうのが混じってるから油断できない。「X-ファイル」系のオカルトくさいSFが好きな人にはオススメです。