日本ではネットフリックス配信だけど、アメリカではちゃんと劇場公開しているらしいSFホラー映画。
個人的にはぜひとも大きなスクリーンで見たかった作品です。
秘密任務から帰還した夫が危篤状態に。最愛の人を救うべく、
生物学者のレナは政府が封鎖した地域へと足を踏み入れる。
その異様な世界で、彼女は一体何を見たのか。
(ネットフリックス概要より)
「シマー」という光の膜に覆われた地域(エリアXと呼称)が出現し、
そこへ入った者は誰も生きて帰って来られない。ゆえに全滅領域。
唯一の生還者、ケインは多臓器不全で昏睡状態に陥る。
ケインの妻で生物学者のレナを含む5人の女性からなる調査隊が
エリアX中心部に存在する灯台を目指してシマーの境界を越える…
という、あらすじだけ聞くと血沸き肉躍るようなアドベンチャー、サバイバル、もしくは未知の生物との熱いバトルなどで彩られた娯楽大作を想像したのですが、
実際は非常に静かで淡々としたムードの演出、老化と自滅をテーマに盛り込んだ心理サスペンスに、さらに難解なSF要素を組み合わせた中にモンスター+エイリアン的ホラーで味付けした雰囲気でした。
こう表現するとかなり盛り沢山な映画ですね。
なので尺も1時間55分と結構長めです。
まあかなり難解でお高く芸術映画ぶってるような雰囲気も感じますが、
それでも生還率ゼロに近い正体不明の変異領域へ乗り込み、
サメの歯を持ったワニに出くわしたり、喰った人間の声マネをするクマなどと戦うくだりは相当恐ろしいシーンになってますし単純にホラー映画として観てもなかなか秀逸です。
危険な生物だけではなく、人型に成長する植物や妙に細身でハデな色のシカがいたりしますが全体的に放射線で汚染され、生物が突然変異を起こしまくってる地域のようで、現実でいうとチェルノブイリ周辺などを想起させます。
先に入って全滅した部隊の残した映像を発見し、再生してみたら
「隊員の腹を切り裂いた中に蠢くヘビのような生物が詰まっていた」という相当スプラッター度が高くエイリアン的気持ち悪さ全開のシーンもあります。
さすがにこれは放射能による突然変異では説明できない現象であり、
幻覚を見ているのか? 全滅した部隊は狂ってお互い殺し合った結果なのか?
疑心暗鬼が生まれると同時にどんどん風呂敷を広げていく様にこちらも引き付けられます。
ケインたちや主人公のレナはなぜ生還できないと分かっていながらエリアXに入ったのか。
自殺と自己破壊は違う。自殺する人間は一部だが、自滅行為は大なり小なり皆やっている。タバコや酒、キャリアに傷をつけるなど。ここに入ってきたのも、細胞が複製エラーを起こして老化してゆくのも同じことではないか?
本作はレナがエリアXに侵入する前、中での事、出た後の事、と3つの時間軸が同時進行し、何があったのかを徐々に浮き彫りにしてゆく構成をとっています。つまりレナ1人が生還できたのは始めから示されていることであり、その点ではスリルを削いではいます。しかし、提示した謎と疑問を明かしていくペース配分が観客を飽きさせないようにかなり練られたものであることは感じられました。
とはいえ、終盤で出現したエイリアン。
あそこから一気にワケのわからない、観念的・抽象的な描写になり、どうもケムに撒かれてしまった気分は拭えません。
灯台の中にあったケインの痕跡、ビデオカメラに残された映像、地下への穴など映像的にはかなり不気味でおぞましいイメージ。エリアXの中にいるだけで変異していく体に耐えられない人間たち。ホラー的には理屈抜きで恐怖を煽られるクライマックスではありました。
エイリアンとの戦いも、相手があまりにも何を考えているのかが分からない異質すぎる生命体なので緊張感は満点です。害意があるのか、戦ってるつもりがあるのかすらも分からない。
ただ彼らには目的も何もないらしく、正体も何も分からないままこの異変は終わります。ケインとレナもエリアXの「何もかもを反射・屈折する」影響を受け、遺伝子レベルで変異しもはや別人と化していた。という、どう受け取ったものだか頭を悩ませるラスト。彼らの関係はレナの不倫で破壊されていたが、最終的には生まれ変わって関係も再生した。という自己破壊と再生の話だったのかな? テーマやメタファー的に筋を通していれば、起こった事実そのものの解明についてはどうでも良い、とする作風の映画は苦手なんですが…。
しかしこの手のモヤモヤエンドな映画にしては不思議と残尿感がありませんでした。
理解できない部分が多かったが映像的にはイマジネーション豊かでホラーでありつつも幻想的だったし、心理描写は難解に見えて終盤までは意外と親切、そのうえ恐ろしいクリーチャーとのスリリングな戦闘も充分見られた。
ということで深く考えずに観てもかなり満足度の高いSFホラーだったからでしょうね。
NETFLIXに加入しているなら観る価値はあると思います。
好き嫌いはかなり分かれそうですが、奇妙なものを観てみたいと思える人ならオススメですね。原作小説があるようなんで読んでみようかと思います。