とある姉妹がプールに潜っていたら、いつの間にかフタを閉められていて、
出られなくなってしまう。
…なんて実に馬鹿馬鹿しいシチュエーションを1時間半かけて大真面目に描いたスリラーです。
それはいいんですが、「プール」なんて一般的すぎる名詞をそのまま邦題にするのはいかがなものか。
同名の映画が3つぐらい既にありますし。
原題が「12 feet deep」なんだから、そのまま「水深3.7m」という邦題にでもした方がまだマシな気がします。「海底47m」を意識している節もありますしね。
…ところで私はプールなどこの20年以上行っていないのですが、
最近のプールは休業中でも水を張ったままで電動カバーをするものなんですかね?
水を何日使いまわすのか知らないけどなんか汚いな…。
深夜のプール、取り残された姉妹
閉ざされたプールカバーと水面の間は数10cm。水深は3.7メートル、足はつかない。明日からプールは休館となる。水面を切り裂く叫びは、誰にも届かない―。
(ニューセレクトHPより)
本作の主役はプールに閉じ込められてしまうマヌケな姉妹ですが、
姉の方を演じているのがあのノラ=ジェーン・ヌーンです。
そう、あの大英帝国が誇る超名作ホラー「ディセント」で、足の骨を開放骨折して苦しんだあげく真っ先に地底人に喰われて死んだあの人です。こんなブログに来ている人なら大体鑑賞済みだとは思いますが、もし「知らねえよ!」って人がいたらぜひ「ディセント」も見てみてください。
…とはいえ、本作の真の主人公はどちらかと言えば姉の方ではなく、妹の方です。
この姉妹、序盤はやたらギスギスしています。
姉の方は結婚間近で順風満帆な人生を歩んでいるのに対し、妹の方はムショ上がりのロクデナシで、劣等感にまみれまくっています。さらに過去に火事で父親を亡くしており、それがトラウマとして彼女らの心に、特に火事の真相を未だ知らずにいる妹の精神を蝕んでいる様子。
本作において、プールの電動カバーを破り脱出する方法はかなり序盤に提示されます。
が、姉は腕力不足でそれが出来ず、妹は精神力不足でそれが出来ません。
何とももどかしい話ですが、妹がこの極限状況で姉と本音でぶつかり合うことによって過去のトラウマを克服する必要があり、そこが本作のキモというわけですね。
プールのフタを閉めちゃうのが「ソウ」シリーズでおなじみのトビン・ベルだからと言って、別にこれが「ソウ」のようなデスゲームだったとかそういうお話ではありません。
妹の精神に未だ棲みつく「怪物」を殺さなければならない。
という抽象的な話しではあるんですが、さすがにプールの中で姉妹ゲンカするだけで1時間半も持たせられるわけがなく、「怪物」は実体としても出現し、姉妹をさらに苦しめることになります。
↑具体的に言うとプールの清掃員のおばさんです。
この人がフタを開けてくれればフツーに姉妹が助かって終わりなんですが、
もちろんそんなわけにはいきません。
「あんたたちがバカだからよ」と至極もっともな罵倒をかましてくれます。
このおばさんもムショ上がりの貧困層で、助かりたければ銀行口座の暗証番号を教えろ!と迫って来るクズですが、それだけでなくいちいち説教垂れたり、姉妹を見下して楽しんだりと実にサイコなおばさんです。
そして暗唱番号を教えるかどうか姉妹でもめまくって、悩みまくって、さんざん逡巡したあげく、「背に腹は代えられぬ」と教えることにしたんですが…
↑これはサイコおばさんでなくてもずっこけますね。
あんだけ渋ってたからにはさぞかし大金が入っているのかと思いきや、80ドルしかないとは…そんならあんなに悩む必要なかったじゃん…
↑怒り心頭のサイコおばさんは、助けを懇願するしかない姉妹に対し、
ひたすら上から目線でおちょくります。
視聴者側としてはストレスMAXですが、ここまでムカつかせてくれると一周回って逆に楽しくなって来ました。
どうせこのサイコおばさんが開けてくれるわけないのは分かり切ってますしね。
「状況を支配してるのは私」…ってたまたまプールの掃除に来ただけのおばさんが
なんでこんなに偉そうに出来るのか。
物凄い支配欲の強そうな性格が伺えますが、それと同時に、今まで支配できるものが何もなくて飢えてたんだろうなあ…降ってわいたこの状況が楽しくて仕方ないんだろうなあ…ということが切実に伝わってきます。
なんせプールのフタを開けるどころか塩素殺菌スイッチを入れて悦に浸るくらいのサディストですからね。強気な姉妹を屈服させようとあの手この手でイジメ抜いてくれます。
そして姉の婚約指輪まで強奪したことで金銭的にも満足し、ついにフタを開けてくれようとするのですが…
開錠コードを忘れたから開けられなかった。というまさかの展開。
そもそもプールの電動カバーごときを開けるのに何でそんなセキュリティが厳重なのか?
そこら辺がよく分かりませんが、まあ脱出方法は序盤で提示済みなのでそれ以外の方法で出られることはないのでしょう。
ということで、奇抜なシチュエーションでのスリラーに見えますが、
頭脳プレイで脱出とか、血みどろのサバイバルがあるとかそういうのではなく、
あくまでも精神に問題を抱えた人間たちの過去清算ドラマ的映画なので、
そういうのが好きな人はそこそこ楽しめるかと思います。