製作:2010年アメリカ
発売:アットエンタテイメント
500年前のスペイン人征服者が持ち込んだという伝説の短剣を探しに南米のジャングル奥地へとやってきた考古学者たち。だがスペイン人の墓を発見し短剣を抜いた時、ジャングルに異変が起こり出す。なんと封印されていた守り神マンドレイクが目覚め襲い掛かって来たのだった。
いつの時代も粗製乱造気味な人喰いモンスター映画というジャンルの中でも、「植物が襲ってくる」系の映画というのは実はそう多くありません。というかかなりレアです。2000年代以降のもので言えば、「肉食怪獣キラーツリー」とか「パラサイト・バイティング 食人草」の2つだけしか思いつかないほどです。貪欲に何でもモンスター化させてしまうこの業界の人々も、何もわざわざ植物にまで人を襲わせることはないと考えているようですね。サメとかワニで良いではないか? 確かにそれは間違っていない。あえて植物を取り上げてもとりわけ面白くなるわけではなく、キワモノ化してしまうだけでしょう。まあ、私はそういうのが好きなんですが。
ところが予想に反して、本作は極めて無難に手堅くそつなくまとめられたB級ホラーになっていました。題材が珍奇だからと言って個性を打ち消す方向で作られても正直あんまりうれしくなかった。とはいえ、クオリティはそれなりに高いので特におかしなところもなく安心して楽しく鑑賞できるレベルの作品ではありました。
本作のタイトルは一応マンドレイクということになっています。
ファンタジー系の創作物でわりとよく目にする名前ですが、一般的に知られているのは
「人型のニンジンみたいな根っこを持っており、引っこ抜く時に悲鳴を上げ、それを聞いた人間は発狂して死ぬ」
というやつではないでしょうか。
採取はリスキーだけど薬や毒の材料として重宝される植物というイメージ。
…なんですが、本作の人喰い植物は特に声も出さないし抜かれるわけでもないし何かの材料になることもないしサイズもでかいので、マンドレイクっぽさが全くないです。作中でマンドレイクと呼ばれることすら一度もない。そういやマンドレイクといえばヨーロッパであり、南米にもあるとは聞いたことが無い。本当にマンドレイクなのか? 配給会社がまた適当な邦題つけたか? と思いましたが原題も普通に「MANDRAKE」でした。スペイン人が持ち込んだのかな。
↑マンドレイクにブチ殺される哀れな考古学者。
触手状の木の根でグルグル巻きにされたあげく真っ二つに引き裂かれる。
植物にしてはなかなかアクティブな殺り方ですが、その辺のイカやタコ、クラゲ型モンスターとの差別化がいまいち出来ていないような気がするという難点も抱えています。食べてるのかどうか分かりませんしね。血を吸ってるらしいですが、それならそうともっと分かりやすく見せてほしかったかな。CGはそれなりに良いです。
↑マンドレイクといえばどうしてもニンジンサイズというイメージなのですが、本作のそれは十メートル以上はあろうかという大木。鋭く強靭な触手を大量に振り回して迫ってくるうえに銃火器がほとんど通用しないという恐るべき脅威。むしろコイツこそマンドレイクというより肉食怪獣キラーツリーと呼ぶべき造形のモンスターではなかろうか。植物だから火に弱いとか、移動速度が遅いなどという特性はいまいち活かされずじまいで惜しい。
まあそんなマンドレイクと原住民のヤンバリ族と考古学者チームと雇い主のサイコ大富豪と4つの勢力がほどよく入り乱れて戦い、最後はパズルのピースのようにあるべきものがあるべきところに収まりすっきり解決する…というまとまりの良さはありますので、
「たまには植物が人を襲う映画を観たいな」
という特殊なニーズを満たす役割は充分果たせているのではないでしょうか。