郊外の一軒家にとりつく、彷徨える亡霊エミリー。だが、雇われ霊媒師シルヴィアの力を借りながら、成仏できない自らの運命に隠された秘密を紐解いてゆく。彼女はなぜ死んだのか、そしてなぜ成仏できないのか。全ての謎が明らかになる時、想像を絶する恐怖が解き放たれる
(amazon説明文より)
霊媒師が、古い洋館にいる幽霊を祓うだけなんて話はもはや陳腐すぎて誰も作りませんが
これは最初から最後までそれを幽霊側の視点で描いているという斬新なホラー映画です。
上映時間が1時間15分程度とかなり短く、登場人物も3人しかいません。
舞台は洋館の中だけだしスタッフもごく少数なので相当な低予算であることがうかがえます。
それにしてもこんなジャケットとタイトルで「おっ!これは面白そうだな!借りてみるか!」
ってなる人はあんまりいないような気がするんですが、どうなんでしょう。
私はなんとなく幽霊が自分が死んだことに気付いていない若干コミカル系入った
能天気なホラーを想像して観てみたんですが、完全にシリアスなホラーでした。
と言っても、誰かが殺されたりするわけでもないので怖い展開があるわけではありません。
白い服を着た若い女性(エミリー)が、朝起きて、目玉焼きを作って食べ、掃除して本読んで顔洗って買い物して…という生前の行動を何度も何度も繰り返します。
この辺は幽霊の生態をリアルに切り取った記録映像とでもいいたげな風で、
どうってことのない日常風景なのにえらく不気味です。
SEやBGMが不穏だというのもありますが、構図や照明にものすごくこだわって撮ったんだろうな、というのが伝わってきます。
日常風景とは言ったものの、目玉焼きを食べるシーンでナイフを逆手に持って振り上げたり、
顔を洗っているシーンでは腕に血の付いた包帯を巻いていたり、掃除するシーンで怪しい物音が聞こえたりと微妙に不穏な伏線は張っています。
そして霊媒師シルヴィアがコンタクトをとってくるんですが、声しか聞こえません。
生者と死者はお互いに姿を見ることが出来ず、特殊な能力を持った者が会話だけを行えるということみたいです。
それからも同じシーンは繰り返されますが、微妙に角度が変わったりして見えるものが少しずつ見えてきて、なぜエミリーは死んだのか、この洋館には他の何かが存在するのか、がじわりじわりと明らかになってきます。
螺旋階段からアレが出てくるところは、まあホラー的にはクライマックスですが
ちょっと滑稽なのが玉にキズですね。そこら辺が低予算の悲しさと言った所でしょうか。
印象的だったのは、因果を解いて家の外に出ようとしたら、
ドアの外には真っ黒な虚無だけが無限に広がっていた、というシーンですね。
成仏するといえば聞こえはいいが、結局のところそれは
存在が無になってしまう、このおぞましい真っ暗闇の中に溶けてしまうと
いうことなんじゃないかという恐怖があります。
この映画は人間ではなく幽霊が恐怖を感じるホラーなんですね。
普通は怖がらせる側である幽霊がビビりまくってるなんて、実に珍しい映画です。
ラストは必然といえば必然なのですが、
実に物悲しい余韻を残します。
面白いことは面白いですが、一風変わったホラーを見てみたいという層にしか
おすすめは出来ませんね…