フォー・ハンズ　感想

製作：2017年ドイツ
発売：クロックワークス

幼い頃に目の前で両親を強盗に殺されたトラウマを抱えるジェシカとソフィー。それでも妹のソフィーは過去を忘れ、ピアノで身を立てようと努力していたが、姉のジェシカは妹を守ると言って犯人たちを葬ることに固執していた。そして犯人たちが保釈された日、彼女たちは意見が合わずもみ合いになったところを車にはねられてしまう。目覚めたソフィーはジェシカが死んだことを知り過干渉な姉から解放されたと安堵するが、彼女の心には姉の人格が入り込んでいた。

陰鬱で病的なスプラッターホラーを作らせたら右に出る国はないと言われる残酷映画大国ドイツ。ユルグ・ブットゲライト、オラフ・イッテンバッハ、クリストフ・シュリンゲンズィーフ、ウーヴェ・ボルなど数々の変態監督を輩出した凄いところです。ただ最近は驚愕のお塩擦り込みスプラッター「アーバン・エクスプローラー」を作ったぐらいで大人しく、ここ数年はすっかり鳴りを潜めてしまっています。そろそろドイツの存在感も薄れてきたのでここらで一発目の覚めるようなスーパートラウマ映画を見せて頂きたいところです。

…しかし残念ながら（？）今作はグロは全く無しの、陰鬱で病的なサイコサスペンス映画となっていました。グロをやめても陰鬱で病的なのは譲れないらしい。監督はオリヴィエ・キーンルという全く知らない人。これがデビュー作のようです。

グロの無いドイツ映画なんて気の抜けたヌルいビールも同然じゃないかと言いたいところですが、意外にも本作はかなりの良作。確かに病的で陰鬱すぎて楽しく盛り上がれる映画ではないのですが、なかなか凝った仕掛けがあったり、陰鬱で絶望的な展開に終始しながらも後味が良く綺麗に決まったラストシーンが素晴らしい。タイトルもいい。陰鬱なサイコサスペンスが好きな人はなるべく前知識なしで見てほしいですね。

両親を目の前で殺された経験から病的に妹を守ろうとしてしまう姉ジェシカ。犯人グループが釈放されたと知るや速攻でブチ殺しに行こうとする狂犬のような恐ろしい女です。
一方、辛い過去を真っ当に乗り越えて日の当たるピアニストへの道を歩もうとしている妹ソフィー。守るとか何とか言ってギラついた目で干渉しまくってくる姉がいい加減ウザイと感じている。そんな2人の対立がいよいよ深刻化し大喧嘩になったところでまとめて車にはねられ、姉が死んでしまい妹は悲しむよりも一安心。

これで心置きなく恋人を作り、ピアノの練習に励める…
と思ったら、時折意識が無くなり、その間に何やらわけの分からないことをしているらしい…何と意識が無い間自分は姉の人格となり犯人グループへ復讐しようと行動を起こしているのだった…

ジャケにある「マインドハックホラー」とはそういうことですが、「殺されるかも」という恐怖ではなく「殺してしまうかも」という恐怖。そんなに殺りたいんだったら殺らせてあげてもいいんじゃないかと思いましたが、人格が乗っ取られてるとはいえ実際に手を下すのは自分の体。逮捕されたくなければ止めるしかない。しかしいつ姉と交代するのかわからない。しかも姉は金遣いが荒く、気づけば貯金が消えている。

殺したい姉を止める妹。陰鬱な割にそこまで切羽詰まってはいないような設定ですが、一つの体を2人で共有しながらも互いの行動を妨害しあう様がなかなか面白いです。金を隠したりあえて自分を拘束したり。

ただちょっとやり過ぎなところもあって、例えば妹が新しい恋人とイチャイチャしてたらいきなり姉に変わってしまい恋人をボッコボコのギッタギタにしてしまったりとか…しかもそれが２回繰り返されたりとか…揚げ句の果てには関係ない人からも思いっきりボコられたりとか…あの彼氏はかわいそうすぎて見てられない。あれだけ殴られて死ななかっただけでも凄いのに最後まで見捨てないで助けてくれるなんて現実どころかフィクションでもそうそう見られない聖人だと思うんですよ。ソフィーにそこまでの魅力があるとは思えないし。彼がいなかったらあの感動的なラストは迎えられなかったはずなんですが、それほど重要な役割だった割りには彼には何も良い事が無かったしいまいち扱いが悪すぎる気がしました。まあ皮を剥いで塩を擦り込まれたりせず、五体満足でいられただけでもドイツ映画としては破格の待遇なのかもしれませんが。

…ということでネタバレを避けてまとまりのない感想を述べてしまいましたが、これは結構オススメです。