グラウンド・デス　感想

本作の主要登場人物はデンマーク国民でありトンネル工事を取材している地下鉄ＰＲ担当者？のリー、出稼ぎ労働者のイーヴォ、難民でありながらトンネル作業員の職に就いている青年バランの3人です。


その中でも主人公と言えるのはリーですが、序盤から非常に鼻持ちならない人物として描かれます。作業員の邪魔になってるとしか思えない強引な取材。出されたコーヒーを陰で捨てる。これはいざ火災が起こってからも留まることを知らず、非常事態に必死で対処しようとしている作業員たちに対してまるでモンスタークレーマーのごとき喚くのなんの。おめえに構ってる暇なんかねーんだよダボが！という作業員の心情を察する気ゼロで一貫して自分さえ良ければいいという態度にこちらのストレスはたまる一方。



で、狭苦しい加圧作業室に上記の３人が閉じ込められてしまうわけですが、ここでもリーはエゴ剥き出しのアレな行動を連発。減圧しなければ外に出られないというのに、テキトーにあっちこっちいじくりまわして勝手に出ようとするわ、水は無駄に浪費するわ。部外者はベテラン作業員の言うことを聞くべきであろうに、ヒステリックで非論理的な口答えしまくりで、このオバハン早く死んでくれないかなあという気分にさせられること必至です。



それでもまだリーの利己的な行動は留まるところを知らず、何とイーヴォの酸素呼吸器を発見したかと思えば小便に行くと嘘をついてこっそり盗み出し、一人で加圧作業室を脱出しようとする。
…という畜生道有段者の如き暴挙に出ますが、これは未遂で取り押さえられ。その上イーヴォが呼吸器を使って助けを呼んでこようとすれば危険だ無謀だと必死で止める。ビックリするほど自分のことを棚に上げまくりです。この一連の流れはいくらなんでも悪役のやることとしか思えず、このオバハンは死ぬんだよな？死ななかったらさすがに胸糞悪いんだが？と溜まったフラストレーションの行き場があるのかどうか不安になってきます。

極め付けに「あの子には私しかいないの！」という定番の言い訳をし始めますが、そんなのは他の２人も同じだし、何より「スマホを観るまで私に子供がいることをすっかり忘れてたわ」なんて薄情極まりないことを言うもんだから言い訳臭さがよけい増します。



そんなリーはさすがに多少は反省したのか、バランの抱えている借金を肩代わりする…という申し出をし、地の底まで堕ちた好感度を上げようともがきます。しかし今更というか唐突過ぎて何とも言えない。金を出せばいいってもんでもないし、生還しても何だかんだ言って払わなさそう。おまけに、終盤でバランと酸素呼吸器を交互に使う場面でその約束を持ち出してより多く呼吸器を使おうとするし、結局クズは最後までドクズでした。移民・難民に対し傲慢な振る舞いをするデンマーク国民への風刺か何かだと思ってもいいのでしょうか？


あと、リーは女性のわりにガタイがいいなとは思ってましたが、終盤でもかなり体力を残しているのが非常に不自然に映ります。屈強な黒人青年であるバランが息も絶え絶えの死にかけなのになんであのオバハンは結構元気なのか。同じ環境にいるのにこれは納得が行かない。憎まれっ子世に憚るってやつ？　




限られた資源を奪い合うデンマーク人と移民・難民を閉鎖空間サバイバル劇になぞらえて陰鬱かつ窮屈に見せてくる映画…という感じなのであちらのそういう事情に興味がある人にはおすすめです。