マーダー・ドライブ　感想

製作：2018年アメリカ
発売：ニューセレクト

中古のキャンピングカーで旅行に出かけた一家。途中、荒野で車が故障し立ち往生していた兄妹を乗せ、近くの町へ向かおうとする。しかし、荒野のど真ん中で突如キャンピングカーが故障し事故を起こしてしまい、死人が出てしまう。

「クワイエット・プレイス」「ドント・ブリーズ」に続く、絶対禁止サバイバルホラー！！
その車に乗ったら、死ぬ。

何とかしてこの２作に便乗したいのは分かるが、全く持って何ひとつ共通点が無いＢ級ホラー映画。ジャケに出ている有名女優２人はしっかり主役ポジションではありましたが（ナタも銃も使わんけど）、デニース・リチャーズは未だに「ワイルドシングス」、ミーシャ・バートンまで「シックス・センス」だなんて前世紀の遺物が代表作扱いされていて、すっかりＢ級落ちしてしまった悲哀が漂っています。
特にミーシャ・バートンは撮影をすっぽかしたり飲酒運転したり奇行で病院送りになったりした揚げ句の「デンジャー・コール」や本作出演というわけですね。Ｂ級映画ファンとしては彼女の今後にも注目していきたいところです。

本作はかつて殺人鬼が所有していたキャンピングカーを中古で買ってしまったせいで、旅行中にその殺人鬼の怨霊に一人ずつ殺されて行く…という実に凡庸極まりない設定のホラー映画でした。
いや、「呪われた車」という設定は凡庸でもキャンピングカーというのは観たことがありませんが。

アメリカはシートベルト着用に厳しいと聞いたことがあるんですが、本作を観ているとドライバーのおじいちゃん以外は誰もシートベルト締めてない。まるで家のリビングのように好き勝手くつろぎまくり。それどころか立って包丁でニンジン刻んで料理なんかしちゃってる。荒野のガタガタ道で。一般的なアメリカ人は本当にそんなことしてんの？
もし急ブレーキや衝突事故なんて起こそうものなら包丁を持ったまま前方に吹っ飛んでいくことになるわけで、正直ここが本作の中で一番スリリングで恐怖を感じるシーンだった気がします。

…というぐらい、殺人鬼の怨霊が襲ってくるシーンに関してはまるで恐怖のカケラも感じられないダメホラーでした。

何がイカンかって、怨霊がテレビに映る場面にせよ、直接攻撃をしかけてくる場面にせよ、あまりにもﾃﾞﾃﾞｰﾝﾊﾞﾊﾞｰﾝとはっきり見せ過ぎなのがですね。
「俺たちはそんなもったいぶったりしないぜ！」というフロンティアスピリットもまあ否定はしませんが、そういうのはモンスターパニックとかに適用されるべきであって、ワビサビが必要な心霊物にはまるで不向きなんですよね。

何よりの問題は、実体のない心霊に襲ってこられても抵抗のしようが無いことで、登場人物たちは成す術も無くただただ無惨に殺されて行くだけ。いくらホラーが好きと言っても、単なる一方的な虐殺ショーを見てもあんまり面白がれないんですよ。日本の「呪怨」とか観てても同じことを感じるんですが、怨霊は無敵すぎるので嫌ですね。あっちの攻撃は即死ものなのに、人間の反撃はまるで効かない。逆転要素が一つもない一方通行。

まあ本作の場合はキャンピングカーから離れるなり爆破するなりしてしまえよとは思いましたが。いくら炎天下の荒野だからってねえ…そもそもそんなボロ車でＪＡＦも来れないような辺境に行くなよって気もしますが…そう考えるとやはり元凶はおじいちゃんか。

ただ、殺される順番は全力でこちらの予想を外してきたので、その点に関しては多少感心しました。胸糞悪いけど。本作の主役となる一家はワケありのようでいて、その掘り下げが非常に浅いまま進行するのですが、後半でようやくその確執が明らかになった時、死ぬ順序にも一応必然性があったんだなとわかる仕掛けです。
と言っても、あのラストの前には全て無意味だったと言わざるを得ませんが。

希望無き不毛なジェノサイド祭りとしてはそれなりに観られる出来ではあるので、その手のホラーが好きな人は暇つぶし程度には楽しめるかと思われます。