ランダム　存在の確率　　感想

「あなたの脳は、ついてこられるか」


…といったジャケットの煽り文句や紹介文を見ると、
本作はかなりカッチリしたパズル的ロジックで固められたハードSFのように見えます。
そのうえ同じ顔の人間が入り乱れる入れ替わりトリックなんかも使われるともう何が何だか分からなくなること必至です。
私もこれは敷居が高いんじゃないかと構えて鑑賞してしまいました。


が、登場人物８人の中には別に天才も学者もおらず普通の人間しかいないので
量子力学・コペンハーゲン解釈についての専門的な解説が出てくるわけでもなく、
奇怪な現象の原因についてはわりとフワッとした説明で流されますので、
ついていけないというほどのことはありませんでした。


そこで出てくるのが、定番すぎて観る人によっては陳腐化しているワードとも言える
「シュレーディンガーの猫」ですが、本作中では一般的な説明の後、このような注釈が付け加えられます・

『「５割の確率で毒ガスが出る箱に入っている猫」は（中略）
しかし本当は、生死どちらか一つになるのではなく、猫が生きている世界と死んでいる世界の２つに分岐するのだ』


彗星が地球に接近したことで、主人公エムたち８人も箱の中の猫と同じ状態に陥っており、彗星が飛び去ると共存が崩れ、別世界の自分たちはもう２度と交わることが無くなるのでは…という仮説が立てられます。


つまり彗星が事象を確定する立場の観測者なのか？

という謎も興味を引くのですが、
本作はそこまで現象そのものに突っ込んでいくSFではなく、
そのような状況に陥った時に彼らは何を考え、どう行動するのか？
という点に絞って話を展開してきます。
「なぜこんなことが起こったのか？」という謎解きにばかり期待すると肩透かしを食らうのでそこは注意した方が良いでしょう。


別世界の自分たちは一体どういう存在であるのか？
こちらの存在を知ったらどういう形で接触してくるのか？


一見危険はなさそうな気もしますが、彼らが遭遇するシーンはかなり不気味でスリリングな演出で見せてきます。
パラレルワールドの自分自身に会うか会わないかと言ったテーマの物語はたまに見かけますが、８人もの集団同士というのは珍しい。案の定というかやはりどう対応するか意見が割れまくる議論の場面が多いし、そんなことするやつがいるか？　と言いたくなるような人物が混じってたりもします。
なので観ていて若干イライラするし、謎解きじゃないのなら結局この映画はどの方向へ向かっているのだ？という疑問も抱えたまま進行しますが、状況設定の物珍しさのおかげもあって退屈はせずに観ていられるレベルにはあります。

そしてこの現象にある事実、というかルールがあると発覚し、いよいよただの人間には事態の収束など図れず、なるようにしかならないのだ…
と判断せざるを得なくなった時、主人公エムはこれまでの積み重ねからある選択をする。

伏線は充分だが目くらましも充分。
それをやりたかったのか！とこの意表を突く終盤の展開には舌を巻きました。
映像的な見せ場が無いことだけが残念無念ですが、かなりの良作なので興味が湧いた人はぜひご覧になるべきかと思います。